保育士の転職理由でよく挙げられるのが「お給料が安い」「職場の人間関係」「残業など、働く環境へ不満がある」の3つです。
しかし現在、深刻な保育士不足を解消するため、政府や自治体がさまざまな対策を打っており、保育業界は大きな転換期を迎えています。
そのため、保育士の労働環境は、働く地域や園によって大きく異なっています。
具体的にどのような差があるのか、労働環境の実態を一つひとつ見ていきましょう。
保育士のお給料は本当に安いのか?
まずは、保育士の転職理由で大多数を占めるお給料について考察していきます。
数字で解説!保育士のお給料
公立・私立を合わせた保育士全体の平均月収は約22.9万円、年収は約342万円になります(2017年度・全国平均)。これは幼稚園教諭の年収約341万円より若干高い数字です。近年、東京都をはじめ首都圏の保育士給与は大幅に上昇しています。
厚生労働省のデータによれば、保育士の平均年収は2013年から2017年の間に全国で約32.3万円、東京都に至っては約69.5万円も上がっているのです。
新卒の初任給でも、月額20~23万円程度支給される園が増えており、保育士のお給料事情は、ここ数年で飛躍的に改善したと考えて良いでしょう。
「保育士のお給料は安い」という固定観念を持たず、幅広い選択肢の中から求人を探すのが大切です。
出典:厚生労働省/賃金構造基本統計調査/2017年
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003084610
保育士を増やそう!政府や自治体が取り組む政策とは?
このように、保育士の給与が大幅に上昇した背景には、深刻な待機児童問題があります。
共働き世帯が増え、保育園に子どもを預けたいという家庭が増えているのですが、受け入れる保育士の数が足りていません。厚生労働省の調べによれば、2017年度末までに国全体として新たに確保が必要となる保育士の数は6.9万人と言われていましたが、未だに十分に確保されたとはいえない状況です。
政府の取り組み
保育士不足を解消するため、数年前から政府が先陣を切って対策をしはじめました。
2015年4月から「子ども・子育て支援新制度」がスタートしたことはご存知でしょうか?
認定こども園のより一層の普及や、給付金制度の刷新などが目玉の新制度だったのですが、この新制度下で保育士の給料が平均3%上昇しました。
加えて、2014年度の公務員給与の見直しに準拠し、2017年4月から保育士の給与が平均2%改善されています。
このように、保育士全員の給与が2015年度と比べて5%アップしたことに加え、同年4月から、経験年数3年以上と7年以上の保育士を対象したキャリアアップ研修が開始されることになりました。
全国各自治体が案内するキャリアアップ研修を受講することで、経験年数3年以上の保育士には月額5000円、7年以上の保育士には月額4万円の手当が付くという内容です。
受講者は園ごとに決められるため、経験年数を満たせば誰もが受講できるというわけではありませんが、これまで役職が無かった中堅の保育士たちに「専門リーダー」「職務分野別リーダー」の名が付き、手当も支給されるということで、現在非常に注目されています。
各自治体の取り組み
全国の自治体も、保育士を確保するためさまざまな対策を講じています。
例えば、千葉県松戸市では、市内の指定保育園で働く保育士さんを対象として、月額45,000円~72,000円(勤続年数に応じて)を支給しています。新卒保育士への家賃補助や、小さな子どものいる保育士には、子どもの保育園への入所を優先させてくれる制度もあります。
大阪市では、市内の認可園に就職した保育士に10万円、さらに1年間働くと10万円を限度にそれぞれ給付されます。
東京都では、世田谷区内の認可園で働く保育士に家賃補助として上限82,00円まで、渋谷区内の認可園で働く保育士には家賃補助が上限10万円まで、江戸川区では区内の保育所に常勤で働く保育士に、区内で使える5万円分の商品券が支給されます。
このほかにも、首都圏とはじめとした各自治体でさまざまな取り組みをしているので、「この街で働きたい」という希望があれば、市政のホームページをチェックしてみて下さい。
転職でお給料は上がるのか?
転職によってお給料をあげられる可能性は大いにあります。
というのも、保育士は現在売り手市場。保育士の数が少ないせいで、優秀な保育士の取り合いをしているのが今の保育士業界です。
前述したように、自治体によっては特別な手当や福利厚生を受けられるところがあるので、そこをねらって転職先を探すのも良いでしょう。
身近な地域でも、待遇面に力を入れている園は必ずあるはずなので「今よりお給料が良いところ」という条件にしぼって転職先を探せば、良い職場を見つけられる可能性は高いでしょう。
保育士の職場環境の実態は?
次に、保育士を辞めたい理由でよくランクインする人間関係や労働環境について考察します。
保育園の人間関係は、どこもギスギスしているのか?
少しずつ男性保育士も増えているとはいえ、保育士は今でも9割以上が女性です。
女性同士の職場では、問題が起きそうになっても表立って争うことはせず、空気を読み合いながら円満に解決していく傾向があるようです。
その「空気を読む」が最初からできればいいですが、新人のうちは自分の仕事に精一杯なので、無意識のうちに思いやりを欠いた行動をしてしまい、嫌味を言われる、なんてこともあるかもしれません。
人間関係については、そこで働く園長やスタッフの性格に大きく左右される傾向があるので、「保育園はどこもイジメがあってギスギスしている」と一概に言うことはできません。
穏やかな人間関係の職場で働きたい、と思うなら、就職先を慎重に選びましょう。
積極的にボランティアや実習に参加し、園の雰囲気をリサーチできると良いですね。園長の性格が穏やかだったり、保育士同士が明るく挨拶をしていたり、新人が生き生きしてる職場は、働きやすい傾向があります。職員がすぐに辞めていないか、離職率にも注目しましょう。
無事に就職が決まったあとは、素直に思いやりを持った態度を心がけ、スタッフと積極的にコミュニケーションを取って下さい。
それでも「入職してみたら、全然雰囲気が違った」「理不尽なことばかり言われる」など、辛い状況が続くなら、転職を考えるのも良いかもしれません。
そんなときねらい目なのは、ニューオープンの保育園です。最近は全国でどんどん新しい園が設立されています。新規園なら、スタッフ全員イチからのスタートですし、意見を出し合いながら風通しの良い環境で働けるかもしれません。
また、現在はSNSが普及していてプライベートの情報が漏れやすいので、取り扱いには充分気をつけ、もめ事の火種を作らないようにしましょう。
休日少なく残業が多い?保育士はハードワーク?
保育士は、元気な子どもを毎日相手にする体力勝負なお仕事です。
体力的に辛いだけならまだいいのかもしれませんが、子どもをあずかるということは、子どもの命をあずかるということ。当然、気をつかっていくことも多いでしょう。
しかしこれは、保育士というお仕事をする上で避けられないことです。
大切なのは、こうしたプレッシャーが自分の許容範囲を超えていないか、ということ。
保育士として実際に働き始めると、「週に◇日の勤務なら体力が持ちそうだな」「私は大人数を見るより、少人数の子どもとしっかり関わりたい」「朝が弱いので早番は難しい」など、自分の向き不向きが見えてきます。
そうした自分の特性を見極め、自分に見合った職場環境を選びましょう。
少し前まで、保育士と言えば残業や持ち帰り作業が当たり前だったかもしれません。
保育士の数がギリギリの園だと、休日が思うように取れないという話もよく聞きます。
ですが、昨今の働き方改革により、求人票の段階から「ウチは残業をしていません!」と明示している園が数多くあります。保育士不足をパートで補い、余裕のある運営を心がけている園もあります。
残業や休日、一人の職員に対する仕事量に関しては、園ごとの判断になるので、一概に「保育士はハードワーク」と結論づけることはできません。
ただ、これを理由に離職する人が多いのは事実です。保育士不足が根本的に解消されないうちは、保育士全員がゆとりを持って働ける環境を作るのは難しいのかもしれません。
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労働環境を良くするには?
では実際、こうした労働環境を改善するにはどうすれば良いでしょうか?
一般的な解決方法は、
・要領良く働けるよう、作業を効率化して工夫する
・スタッフ同士で助け合う
・上司に不満を訴えて改善してもらう
の3つですが、それでも環境が良くならず、行き詰まりを感じるのであれば、転職を考えてみるのも良いでしょう。
転職は踏み出すのに勇気が要りますが、自分に合った労働環境を選び直せる、ステップアップができる、という多くのメリットがあります。
転職で気を付けるべきこと
転職先を探す際には、下記のようなチェックは必ず行いましょう。
・お給料や勤務時間
・福利厚生のチェック
・産休等の職場復帰や支援体制が整っているかの確認
・運営方針の確認
・職場の雰囲気
募集要項での確認も当然ですが、気になることは面接時に口頭でも質問してみたほうがいいですよ。「職場の雰囲気」については、見学などをさせてもらう際に、保育士同士の会話や教室での様子などで確認しましょう。
また、保育士には「正社員として保育園で働く」という以外にも幅広い選択肢があります。
ここからは、保育士資格の強みを生かした多様な働き方について紹介します。
転職するなら?働きやすい雇用形態を選ぼう!
保育士は、全員が正社員というわけではありません。一般企業と同じように契約社員や派遣社員もいれば、パート・アルバイト待遇で勤務している人もいます。2014年の「東京都保育士実態調査」によると、保育士として働いている方の雇用形態は、正社員で57.2%、フルタイム有期契約職員で10.8%、パートタイム有期契約職員で30.9%ということです。
正社員として働いている方の割合は6割以下ということになります。
出典:東京都福祉保健局/東京都保育士実態調査/2014年
http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2014/04/DATA/60o4s201.pdf
正社員という働き方
正規雇用にも非正規雇用にも、それぞれ良い点悪い点があります。正社員のメリットと言えば、抜群の安定性でしょう。雇用期間に定めがなく、勤続年数に従って昇給できるのが基本ですし、お給料もボーナスも魅力的です。
デメリットとしては、その分責任が重くなるために、残業が多くなったりお休みが取りづらくなったりすることでしょうか。
契約社員
メリットとしては、正社員よりも職務に対しての負担が軽いということでしょうか。正社員よりもお給料が低めであることはデメリットですが、残業も比較的少ないようです。
しかし、雇用契約に期限が設けられているので、場合によっては契約延長とならずに終了になってしまうということもあります。
アルバイト(パート)という働き方
アルバイト保育士のメリットは、勤務時間や日数を自分の裁量で決められるところです。
子育て中の方や年配の方でも、自分の私生活を優先しながら働くことができます。
デメリットはお給料です。時給制になるため、働き方によっては正社員の頃より下がってしまうこともあるかもしれません。
東京都保育士実態調査の「保育士の正社員の割合」ですが、年齢別にすると20代女性が84.4%と高水準なのに対し、30代女性の割合は53.4%にまで減少してしまいます。
これは、結婚や出産などによって保育士を離職する人が多いということを示しています。
同じ調査の中で「保育士を退職した理由」の統計を見たところ、(妊娠・出産25.7%)が(給料が安い25.5%)を抜いて第一位でした。
妊娠・出産後も長く保育士を続けるとなると、さまざまな働き方を模索する必要があるのかもしれませんね。
ベビーシッターなど、保育園以外の働き方もある
待機児童問題がなかなか解消されない昨今、着実に需要を高めているのがベビーシッターの存在です。
お仕事内容は、主に依頼者の自宅や民間の託児所などに出向き、保護者に代わって子どものお世話をします。具体的には子どもといっしょに遊んだり、トイレや食事のお手伝いをしたり、親御さんに代わって習い事の送迎を依頼されることもあります。
ベビーシッターの働き方やお給料は?
ベビーシッターの雇用形態は、主にパートタイムです。
まずはベビーシッター専門の派遣会社に登録して、空いた時間に働く形になります。
子育て中の方でもダブルワークの方でも、プライベートを優先した自由な働き方ができるのが魅力で、時給は平均1000円~1500円ほど。会社によっては2000円前後の場合もあるので、働き方によっては高収入も期待できます。
ベビーシッターのやりがい
お預かりする人数は1人か、多くても兄弟姉妹を含めた2~3人程度です。
「これをやらなくては」という決められたルールも基本的にないので、子どもの「やりたい!」を優先し、たくさんの笑顔を引き出してあげることができます。
子どもの安全について一人で責任を負わなくてはいけないので、大変な部分もありますが、保護者や子どもとダイレクトに関わることができるので、しっかりと信頼関係を築いていけます。
雑務も、会社や保護者への報告書を書く程度なので時間を有効に使えます。
保育士バンク!から生まれた「KIDSNAシッター」にも注目
保育士の専門転職サービス「保育士バンク!」から生まれた「KIDSNAシッター」は、保育士・幼稚園教諭の資格を持つ方のみが登録できる、プロフェッショナルなベビシッターサービスです。最低時給1600円からスタートできて、充実したサポート体制で、あなたの希望に合わせた働き方を応援します!
まとめ 転職するなら自分に合った働き方をしよう
保育士の労働環境について、現在の実態をお伝えしました。
環境は前向きに改善されているということがお分かりいただけたかと思いますが、地域や園によっては、まだまだ検討が必要なところもあるようです。
同じ保育士という仕事でも、働く職場によって、モチベーションは大きく変わってきます。
思い切って転職を考える際は、労働環境をしっかりとチェックして、保育という仕事を心から楽しめるような働き方を選びましょう。