未来を生きる子どもたちにいま、そしてこれから保育者ができることは何か。
保育教育研究の第一線に立つ研究者の方々にきく、保育士バンク!連載企画第3回。『いま大きく変わる保育の質』について汐見稔幸教授にインタビュー。後編は『子どもの未来につながる保育』について、汐見先生のエピソードとともに、真摯に向き合っていく。
子どもが育つ生活と環境は人類史上かつてないほど変わり、未来では、さらに大きく変わってしまうかもしれない。
前回(※中編)、生活の中だけでは子どもの自発性が育たなくなった理由と、子どもたちを取り巻く環境の変化を教えてくれた汐見稔幸先生。
現代では育ちにくくなった『非認知的スキル』を人工的に育てるための役割を担うべく、保育園・幼稚園は保育の質をより高める役割を担って動き出している。
保育者は何を見据え、手がかりにして『子どもたちが21世紀を力強く生き抜く力』を育てるのか。保育者が担う役割について、汐見先生は静かに、温かく語ってくれた。
【1】自発的な子どもを育てる保育の『見直し』
ーーー「議論することが楽しくてしょうがない、という人間を育てなければいけない」と、前回(※中編参照)お話しいただきました。 現場の保育者は、今までの幼児教育・保育への認識を変えていく過程の中にいます。意識を変えていくために、具体的にどのような取り組み例があるのでしょうか。
今回の保育所保育指針、幼稚園教育要領、幼保連携型認定こども園教育・保育要領の3法令の改定は、『子どもが自発的にやりだす、工夫する』力を鍛えるために行っています。
鍛えるためには、先生が仕切って先生の指示通りにできたら『いい子』だということを、できるだけ減らしていったほうがいい。
先生の指示通りに「できたね」と褒めることの一番典型的な例は、運動会のような行事なんです。
運動会までに子どもたちの出し物ができるよう、先生が練習させることに一生懸命になってしまうこと、ありませんか。
ーーー確かに、保護者の方に「子どもたちが少しでも成長した姿を見て、喜んでほしい」という保育者の気持ちが強くなって、焦りが子どもに伝わってしまうことがあるかもしれません。
運動会で多いのは、何の演目をやるか先生が選んで、練習をすると決めるのも先生というタイプ。
そこで、僕がしばらく園長をしていた白梅学園付属幼稚園では、運動会でも「子どもが自分たちで考えたり決めたりすることを増やしていこう」と変えたんです。
『大人が仕切る行事』を見直す
その年の運動会は、「ママやパパたちに、僕らは何ができるようになったか、どんなことをいまやっているのか、見てもらう日にするよ。みんなは、何を見てもらいたい?」と子どもに聞いてみたのです。
ママやパパたちに何を見てもらいたいか、子どもたちみんなでわぁわぁと議論を始めると、本当にたくさんのアイデアが出てくるんですよ。
4歳児クラスでは10以上のアイデアが出てきた。
ーーー子どもたちからアイデアが10個以上も!
もちろん全部はできないから、子どもたちが話し合い、2つのアイデアに絞っていった。
そしたら、練習しようなんて言わなくても、子どもたちが自分で練習をやり始めたんです。
リレーの練習している途中で、4歳の子どもたちが「もっとママやパパたちを、びっくりさせられることを入れようよ」とアイデアを出し、自分たちでどんどん工夫して見せ場を作っていった。
「今年は運動会当日のためのアーチや飾りも、先生たちは作らないけど、どうする?」と聞いてみたら、子どもたちから「自分たちで作ろう」と言って作り出した。
子どもの作品だから大がかりではないけれど、子どもたちのこだわりがつまった凝ったアーチができました。
入場の行進も、万国旗も、音楽もない。
いわゆる運動会らしいものはあまりないけれど、子どもたちが手づくりした運動会が始まりました。 もちろん、司会も子どもたちが自分たちでやりきりました。
議論することで成長する『自分で考える力』
ーーー運動会のエピソードには、子どもたちが話し合う場面が何度か出てきましたが、子どもたちだけで議論をするには、時間がかかりませんか?子どもたちだけで結論までたどり着けるのでしょうか。
議論をしていく中で、子どもたちは「議論とはこうやってやるものだ」「まとまりをつけないといけないんだな」ということが、意外と分かってきますよ。
もちろん最初は先生が手伝わないとできません。まず議論を始めるときは、先生が仕切るお手本を見せる。
議論の意味がわからなくて、あっちこっちに行ってしまう子や自分のことにしか関心がない子もいます。そんなときは、先生が議論に入って上手に仕切ってあげる。
子どもたちに任せながらも、先生は適切なタイミングでお手本を見せる。
子どもたちの議論をまとめる先生の手腕は、経験するごとに身についていきますよ。
議論することで意見を言うことの大切さを感じたり、自分の意見を尊重してもらえる体験ができれば、子どもたちの中で『自分で考える力』が成長していく度合は確実に大きいですよね。
ーーー議論をして、みんなの考えをひとつの形にまとめていくことが、どんどん楽しくなっていきそうですね。
昔のように『上手に子どもを動かすこと』ではなく、今は『子どもたちがどれだけやる気になるのか』が一番のポイントです。
現在、世界の教育の主流は、子どもたちを『面白いと思ったことを、自発的にどんどんやりだす人間に育てる』ということになってきています。(※中編参照)
ところが、大人は自分が受けてきた教育を否定したくない。だから、昔のような指示を出す教育が大事だと思いこみたい部分もある。
でもそれでは、うまく育たない時代になってきたんですよ。
「大人が仕切る教育」が今だ残っている日本の教育は、いまの世界の中で、ものすごく特殊だと思います。だから何とか変えていかないと、本当に世界の中から取り残されていく。
ーーー大人が仕切って『見せる』ための運動会から、子どもが大人たちに『見せたい』ための運動会に変わったことについて、保護者の方たちはどのように感じたのでしょうか。
保護者に理解してもらうことについては、多少時間がかかると思っているんです。 僕は保護者の方々にこう説明をしました。
「準備も全部子どもたちがやったんですよ。だから、今年は随分変わりました」
「準備の中で、子どもたち同士ケンカになることもありましたし、討論もしていました」
「運動会の準備をする子どもたちの様子を、全部写真に撮って貼ってありますから見てほしい」
「子どもたちの『自発的に行動する力』や『自分で考える力』は、確実に今までより大きく育っていると思っていますので、今年はぜひ一度見て感想をください」
もちろん保護者の中には『運動会とはこういうものだ』というイメージがあるでしょう。 「運動会らしいことも、ちょっと入れてほしい」という意見や感想もありました。
だから、あぁなるほどなぁと感じて『両方の要素をどう組み合わせてやるか』という工夫を、今は取り組んでいます。
【2】子どもが未来を生き抜くための『10の姿』
突然出てきた『10の姿』とは?
ーーー保育所保育指針が大きく変わり『3法令(※)』が同時に改定された意味や具体的にどのような意識で子どもたちと向き合っていくべきかわかりました。では、3法令の中に新たに加えられた『10の姿』は、どのようにとらえたらいいのでしょうか。まだつかみ切れない保育者の方が多いと感じています。
『10の姿』。
なぜこんなことが突然出てきたのかというと、各職場や保育者みんなで『これからの時代を生きる子どもたちには、どういう力が必要なのか』ということを議論するためなんです。
僕は、議論するためには「3つでもいい。10もあるから分かりづらくしてるんだ」って、言っているんですけどね。
①体でいろんなことを覚えていくこと。
②とにかくみんなで考え、議論すること。
③他者と豊かに関わること。
この3つは、人類はずっと大事にしてきたことだとお話しました。(※前編参照)
ではどうしてこの3つが、21世紀のAI社会を生きる上で大切なのか、どのような場面で必要になってくるのかを、もう少し具体的に細かく分けて考えてみましょう。
『10の姿』は人類が大事にしてきた3つのことから生まれた
Purino/Shutterstock.com
例えば『体でいろんなことを覚えていくこと』を細かく分けてみよう。
『10の姿』の1つに、『自然との関わり』という項目があるでしょう。
これは、自然と関わることで、感性を鍛えることを意味しています。
感性とは、周りから入ってきた情報をまず「わあ、素敵!」と感じる力で、理屈で考える前の判断力のこと。実は体の能力であり、五感の能力なんですよ。
一方で、コンピュータは「わあ、素敵!」という五感の能力で感じる部分は分からない。
コンピュータにいろいろいろな絵の情報を入力して、「素敵でしょ」と言っても、「使っている色の割合は茶色が21.5%」というような判断しかできない。
絵を見てすぐに素敵だと感じて、「どうしてこの絵を素敵だと思うのかしら」と考え、絵の価値を判断をするプロセスはコンピュータにはない。人間独自の判断です。
つまり感性豊かに表現したり分析できるよう、感性を鍛えることで、コンピュータやAI以上の判断ができるようになる。
もしかしたら、感性を言葉で表現できる『詩人のようになれる人』が、21世紀のAI社会やコンピュータ社会では、一番上手に生きることができる人かもしれないよね。
こういう『感性を鍛える』未来の姿も、『10の姿』の中に入っている。
『10の姿』は21世紀をたくましく生き抜く子どもの未来の姿
また、『とにかくみんなで考え、議論すること』を細かく分けると、『10の姿』の6番目『思考力の芽生え』と8番目の『数量や図形、認識や文字などへの関心、感覚』などにあたります。
MIA Studio/Shutterstock.com
コンピュータ社会やAI社会になると、無料動画サイトのように情報が図像や絵で与えられることが多くなります。
図や動画で見ると、物事が分かりやすい。コンピュータグラフィックを使えば、さらにわかりやすいから、すぐ理解した気持ちになってしまうでしょう。
ところが実際には、体で体験して、やり方を順番に論理立てて『理詰め』で覚えたわけではない。
理解した『感覚」になっているだけだから、万が一間違っているやり方を覚えてしまったとしても、それに気づけない。簡単に騙される人間になってしまうんです。
コンピュータ、AI社会では、理屈で考えられる力を並行して育てていかないと、実は大変なことになるでしょう。
理詰めで考える力を失うことを防ぐのは、6番目の姿の『思考力の芽生え』や8番目の姿である『数量や図形、認識や文字などへの関心、感覚』。
つまり『10の姿』とは、ポツポツと思いついて選んでいるのではなく、『AI社会の中を人間的に生きていくためには、こういう力が必要なんだ』というのを示したものなんです。
ーーー『10の姿』は、『21世紀を生き抜く子どもたちの未来の姿』を、保育者が具体的にイメージするための、ヒントのようなものなんですね。
この『10の姿』を手がかりに、各職場で保育者みんながどのように保育を行うかを議論してほしい。
これからの時代を生きる子どもたちに必要な力を議論して、
「だから私たちの園ではこういうことをやっている」
「だからこんな遊びを取り入れている」
という風に、具体的な保育の形にしていくんですよ。
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これは、特に保育園にお願いしたいことなんですけどね。
保育園のこれからの役割として、『生活で育たなくなった非認知的スキルを保育園で育てていくこと』。つまり、広い意味で教育的な機能を高めていくということが1つあります。
だけどね、もう一つ、お願いがあるんです。
保育園の役割はもともと福祉機関であり、今でも変わらないということです。
僕は『心の貧困問題をどのように克服していくか』というのが、保育園に課せられたもう一つの仕事だと思っているのです。
現代に広がる新しい意味の貧困問題
これからの時代は、金銭的な貧困問題だけでなく、家庭が核家族化していくでしょう。
おじいちゃん、おばあちゃん、親類縁者、いとこやはとこ。
幼い子どもがいろいろな人にふれ合う機会が、徐々に失われています。
すると何かあったとき、すぐに身近でなぐさめてくれるような関係性、
「小さなころ、誰かがいつもなぐさめてくれたなぁ」
「従兄のお兄ちゃんが私のこと可愛がってくれたなぁ」
といった、昔だったら当たり前のようにあった人間関係が、どんどん失われている。
身近な人間が少なくなる中で、保護者がイライラしていて、子どもにガミガミなんかしてしまったら、幼い頃から親の顔色をうかがいながら生きて成長する子どもが必然的に増えてくる。
それが現代の、新しい広い意味での貧困問題だと思っているんです。
他人に愛され「生まれてきて良かった」と感じる
貧困という言い方は不正確な言い方かもしれませんが、便利さを追求していくと、逆に心の潤いや余裕が、なくなってしまうことも考えられるでしょう。
その中に子どもが挟まれてしまうと「生まれてきてよかった」と思える感覚が、なかなか得られないこともあるかもしれない。
山田洋次監督の『学校』という映画で、夜間中学校をモデルにした話があります。主人公が通う夜間中学校の先生は実在するのですが、小学生時代、長崎で生まれて原爆で家が焼け、母と妹と3人、今でいう貧乏のどん底みたいな状態で小学校時代を暮らしていました。
小学校の先生からは、貧乏がゆえのボロボロの服や身だしなみに心無い言葉をかけられ、とてもつらい思いをしていた。
しかし妹を迎えに行くときに会う、ある保育園の先生だけは違っていました。
彼女だけは、彼のことを気にかけてくれ、いつも励ましてくれた。
彼にとって保育士さんは、彼がいちばん大変なときに、生きる力の最も基礎の『愛される』という喜びを教えてくれた人だった。
そんな実話があるんです。
子どもが幸せを感じるためにできる仕事
物理的な貧困もあれば、保護者の心理状態によって子どもが周囲から孤立してしまい、子どもの『心の貧困』に直結してしまうこともある。
時代が変われば、『貧困』という言葉の中身も変わります。
でもどんな時代も、保育士さんというのは一番大変なときに大変な子どもだちを、心から包み、励ましていく仕事をする人なんだと、僕は思っています。
もし寂しい思いをしている子どもを見つけたら、ひたすら抱きしめてあげてほしい。
実はいま、家に本なんか一冊もないんだという子どもは大勢います。そういう子どもには、他の子どもの10倍ぐらい本を読んであげてほしい。
子どもが『生まれてきてよかった』と少しでも思ってくれる。そのための仕事が、保育の仕事なんですよ。
そして、さまざまな子どもと出会い『どうやったら子どもの心に火が付くのか』を一人ひとりに合わせて考え続けていくことも、また大事な仕事です。
何でも便利に機械がやってしまう現代社会のなかで、最も生きがいのある仕事なのかもしれない、と僕は思うんです。
だからある意味では、保育士さんの仕事にはきりがない。
大変なことはいっぱいある。
けれども、この仕事を『どうでもいい』と思う人はどんどん減ってきています。
そして『本当に大事な仕事なんだ』ということが、だんだんわかってきていますよね。
だから保育士という仕事は、最初はいろいろ苦労したけれど『やっぱりこの仕事をやっていてよかった』となる確率が、ものすごく高い仕事なんです。
ぜひ、この仕事を選んでほしいなって思います。
【後編・終】
<汐見稔幸先生・プロフィール>
1947年大阪府生まれ。 2018年3月まで白梅学園大学・同短期大学学長を務める。
東京大学名誉教授・日本保育学会会長・国保育士養成協議会会長・白梅学園大学名誉学長
保育所保育指針の改定に関する検討を行った社会保障審議会児童部会保育専門委員会委員長を務めた。
また現在、厚生労働省子ども家庭局長が学識経験者等を参集した「保育所等における保育の質の確保・向上に関する検討会」で座長を務める。
専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。
一般社団法人家族・保育デザイン研究所代表理事。
保育についての自由な経験交流と学びの場である臨床育児・保育研究会を主催。
保育者による本音の交流雑誌『エデュカーレ』の責任編集者を務め、『10の姿で保育の質を高める本 (これからの保育シリーズ)/汐見 稔幸 (著)中山 昌樹(著)(出版社 風鳴舎)』、『さあ、子どもたちの「未来」を話しませんか/汐見稔幸 (著)おおえだけいこ(イラスト)(出版社 小学館)』などの書籍執筆や講演会など、全国を飛び回り精力的に活動している。
<取材・執筆・撮影>保育士バンク!編集部