ピアジェが提唱する「形式的操作期」は、思春期以降の子どもの抽象的な思考能力や論理的推論の発達段階をあらわしたものです。この理論を知ることで、小学校高学年からの子どもの発達を理解し、保育や教育に活かす方法が見つかるかもしれません。ここでは、子どもの教育や発達支援の現場で役立てることができる「形式的操作期」を解説します。
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ピアジェの発達理論とは
ジャン・ピアジェ(Jean Piaget)は、スイス出身の発達心理学者で、子どもの認知発達に関する理論を確立した人物として知られています。
ピアジェは、子どもの思考や理解が成長とともに変化することを観察し、それを4つの発達段階として整理しました。
この理論は、保育・教育の現場で子どもの行動を理解するヒントとなるほか、保育士試験などでも重要なトピックとして取り上げられています。
まずは基本をおさえるために、ピアジェの発達理論の概要について見ていきましょう。
ピアジェの発達理論と「形式的操作期」
ピアジェは、子どもの発達を「感覚運動期」「前操作期」「具体的操作期」「形式的操作期」の4段階に分けて考えました。
■【0~2歳】感覚運動期
生まれたばかりの子どもが、五感や身体を使いながら環境を探り、学んでいく段階です。視覚や触覚を通じて周囲を理解し「物が見えなくなっても存在している」という概念がすこしずつ徐々に形成されるのが特徴です。
■【2~7歳】前操作期
この段階では、言葉やイメージを使って考える力が芽生えますが、論理的な思考はまだ発達していません。物事を自分中心で捉える傾向(自己中心性)や、物に命が宿っているかのように感じる思考(アミニズム)が目立ちます。イメージの世界を活用した「ごっこ遊び」などが活発になる時期です。
■【7~11歳】具体的操作期
具体的な物事について考える能力が伸び、数量や大きさ、順序を論理的に理解できるようになります。たとえば「水を別の容器に移しても量は変わらない」といった数の保存を理解する段階です。ただし、抽象的な概念について深く考える力はまだ完全に育ってはいません。
■【12歳以降】形式的操作期
抽象的で複雑な問題に取り組む力が発達する時期です。この段階の子どもは、仮説を立て、その結果を検討するような思考ができるようになります。「未来の自分」や「社会全体」について想像を巡らせるなど、より高度な論理的思考が見られるようになります。
今回は、このなかでも12歳以降に該当する「形式的操作期」をより深く理解することで、学童保育や教育現場などで活かす方法について紹介します。
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【ピアジェの形式的操作期】主な特徴と支援
前章で紹介した「形式的操作期」は、子どもの思春期以降に見られる発達段階を指します。この時期の主な特徴について見ていきましょう。
抽象的な思考への移行
形式的操作期になると、目に見えない概念やルールについて考えられるようになります。たとえば、数学の方程式を理解したり「自由」や「正義」といったテーマに興味を持ったりすることが挙げられます。
思春期に入ると、子どもたちは「宇宙の起源は?」「人はなぜ生きるのか?」といった哲学的なテーマや、社会問題などに興味を持ち始めます。
教育者や支援者はこうした質問に対し、すぐに答えを提供するのではなく「その疑問、素晴らしいね!みんなで意見を出しあってみよう」と、対話の場を広げる姿勢が大切です。
このような対応を心がけることで、子どもたちが自分で考える力や、他者の視点を学ぶ機会を提供できそうです。
仮説的推論が可能になる
「もし〇〇だったらどうなるだろう?」と仮説を立て、それを検証する力が育ちます。友だちとの会話では、将来の夢や社会の問題について議論する姿が見られるかもしれません。
形式的操作期では「気候変動が進んだらどうなるの?」「自分の将来は成功するのだろうか?」といった抽象的かつ大きなテーマへの不安を抱きがちです。
教育者は、これらの不安や考えを否定せず寄り添う姿勢を持ちましょう。たとえば、将来に不安をもっている子どもに対してキャリアプランの立て方について教え、一緒に考えながら、不安を前向きなエネルギーに変えるサポートができるとよいでしょう。
自分を客観視できるようになる
この時期は、自分自身を他人の視点から見て評価する力が発達します。
友人関係の中で自分の立ち位置を模索し、自分自身を客観視する力が育まれることで本人のアイデンティティの確立がなされます。この過程では、仲間内の意見の違いや競争からストレスを感じることもあります。
支援者は、子どもが自己肯定感を維持できるような声かけを意識することが重要です。たとえば「いい考えだね、もっと詳しく知りたいから聞かせて」といった承認の言葉を積極的に伝え、対人関係での不安を和らげる支援ができるとよいかもしれません。
子どもたちそれぞれが、日常的な友達とのトラブルや自己肯定感の低下といった問題を抱えていないか見逃さないよう意識しましょう。
このように、形式的操作期は、子どもが大人へと成長する上で重要な転機となる段階といえるようです。
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【ピアジェの形式的操作期】保護者への対応
保護者からは「急に反抗的な態度が増えた」「とにかく意見を曲げない」「子どもがなにを考えているのかわからない」といった相談を受けることがあるでしょう。こうしたケースでは、以下のような内容を意識した声かけができるとよさそうです。
思春期の成長過程であることを伝える
子どもが自分の考えにこだわったり、議論を好んだりするのは、形式的操作期における自然な発達の表れです。「大人になる準備段階として、考える力が伸びている証拠」と伝えられるとよいかもしれません。
また、親に反発する行動も「精神的な自立に向けた成長過程」と捉えることで、親子関係の衝突があっても、長い目で見ることで前向きに受け止められるようアドバイスします。
子どもに寄り添う姿勢を持つ
形式的操作期では、抽象的思考や自己主張の力が発達するため、反抗的に見える行動も成長の一環と考えましょう。保護者には、子どもの意見や疑問を否定せず、子ども自身に興味を持って寄り添う姿勢を勧めることができるとよいかもしれません。
また、子どもの意見や興味を持っていることに対して「何をしているの?すごく面白そうだね、私にも教えて」など同じ目線から共感する言葉を使うことで、自己肯定感を守ることができます。
このような言動に加えて、親が一方的に意見を押しつけるのではなく、子どもの考えを丁寧に聞く姿勢が、信頼関係を深める鍵になると伝えましょう。
子どもとの会話の時間を作る
コミュニケーションそのものがとりづらくなっている保護者に対しては、社会や将来についておおらかかつ自由に意見を話せる時間を持つことを提案してみるのもよいでしょう。
たとえば、食事やリビングでくつろいでいる時間に、時事の話題や学校での生活や興味のあることなどを会話の糸口にします。
会話の中で子どもの意見や視点を引き出しながら共感したり、ともに考える姿勢を見せるようにしたりすると、子どもの考えを育てるきっかけになります。
一日のうち数分でも対話する環境をつくることで、親子関係が改善することを伝え、こどもへのかかわりへの安定につなげられるようにしましょう。
思春期を支えるピアジェの形式的操作期
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形式的操作期にある12歳以上の子どもと保護者の関係を、教育者や支援者としての立場でサポートするには、子どもの好奇心や成長過程のこだわりなどを肯定的に受け止めてもらうことが大切かもしれません。
子ども一人ひとりの個性や育ち、悩みに寄り添いながら、保護者と子どもの円滑なコミュニケーションをうながし、思考や自己肯定感を育てる方法を探していけるとよいでしょう。
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