保育士さんが押さえておきたい知識の一つに「ピアジェの認知発達理論」があるようです。幼児期から学童期の子どもがどのように学び、世界を理解する過程を4つの段階に分けて説明しており、子どもの思考が発展する枠組みについて理解ができる心理学理論です。今回は、ピアジェの理論を紹介し、それを保育の現場での実践例と適切な声かけ例について解説します。
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ピアジェとは?保育に役立つ心理学からの視点
ジャン・ピアジェは、19世紀から20世紀にかけて活躍したスイスの心理学者・教育学者です。現代においては「発達心理学の父」と呼ばれることもあるようです。
子どもの認知発達に関する研究を行ない、世界中で広く認知される独自の理論を打ち立てたピアジェは、子どもには年齢に応じて発達段階があることを提唱し、それにあわせて子どもの幼児期から学童期にかけての認知発達の領域を、4つの段階で理論づけました。
これにより、子どもは自分の経験を通して世界を構築していくという、能動的な学びの発達段階を持っていること、そしてその重要性を強調しました。
この視点は、子どもの自主性を尊重しながら学びをサポートする保育の役割にも深く関係があると言えるでしょう。
【ピアジェの認知発達理論】4つの段階
ピアジェは、子どもの認知発達を以下の4つの段階に分けました。
■感覚運動期(0〜2歳)
赤ちゃんが感覚と運動を通じて世界を理解していく時期です。目の前のものを見たり触ったりする直接的な体験を通じて学習します。
■前操作期(2〜7歳)
言葉を使えるようになり、想像力も豊かになりますが、まだ論理的な思考は難しい時期です。自己中心的な考え方が特徴的です。
■具体的操作期(7〜11歳)
物事を順序立てて考えられるようになり、具体的な事物を対象とした論理的思考が可能になります。
■形式的操作期(11歳〜)
抽象的な考え方ができるようになり、仮説を立てて検証するような科学的思考が可能になります。
これらの段階は、順番に発達していき、前の段階を飛び越えることはできません。また、各段階での経験は、次の段階の発達の土台となります。
このような段階があることを保育士さんがあらかじめ理解しておくことで、子どもができること・できないことに対して、保育内容を発達段階に合わせたものに軌道修正したり、次の段階への準備を整えたりするといった適切なアプローチにつなげられるとよいでしょう。
保育士さんはこの発達段階を理解して、子どもの現在の認知レベルに合わせた適切な支援や働きかけを取り入れるきっかけにできるとよいのではないでしょうか。
以下からは、4つの発達段階ごとに、保育のなかで実践につなげられる例を見ていきましょう。
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【ピアジェの認知発達理論】感覚運動期(0〜2歳)の保育
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2歳までの感覚運動期とされる子どもは、感覚と動作を通じて周囲を探索します。
五感を通じて世界を理解するため、この時期は「触れる」「見る」「聞く」といった体験を豊富に提供できるとよいようです。
また、0歳から積極的に周囲の世界との関わりを深める声かけを行なっていくことも、よい発達につながっていくかもしれません。
保育現場での取り入れ例
「触れる」「見る」「聞く」を下地とした感覚運動期の保育アイデアを紹介します。
- さまざまな質感を持つおもちゃを触り、触覚を刺激する
- 音が出るおもちゃで因果関係を学ぶ(ボタンを押すと音が出るなど)
- 水や砂などの感覚遊びを通じた五感の刺激する
- ミラーを使って自己認識を促す
効果的な声かけ例
上記の保育例に加えて、保育士さんが行なうと効果的な声かけの一例です。
「触ってみたらどうかな?柔らかい感じがするね」
触覚を意識することで、物に対する感覚の発達を促します。
「このボタンを押すと音が出るんだよ。やってみようか?」
因果関係を学ぶため、動作と結果の関連をわかりやすく説明します。
「ほら、自分の顔が鏡に映っているね!誰かな?」
自己認識を促し、自己理解を深める支援を行ないます。
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【ピアジェの認知発達理論】前操作期(2〜7歳)の保育
この時期の子どもの発達段階は、前操作期と呼ばれます。言葉やイメージを使って物事を理解することで、想像力が豊かになることを表しているようです。
保育の現場では、子どもの想像力や言語能力を伸ばす活動を取り入れるのが効果的です。
また、象徴的思考が発達するこの時期では、子どもの想像力や言語能力を引き出す声かけが効果的です。問いかけや促しによって、さらに深い思考や遊びへと導けるでしょう。
保育現場での取り入れ例
想像力や言語能力を伸ばすための前操作期の保育アイデアです。
- ごっこ遊びや役割演技で社会的なスキルを育てる
- 絵本の読み聞かせで物語を理解し、質問を通じて思考を深める
- お絵かきや工作を通じた創造力の促進する
- 日常の体験をシンプルに説明し、子どもの言葉で説明する練習を取り入れる
効果的な声かけ例
上記の保育例に加えて、保育士さんが行なうと効果的な声かけの一例です。
「今日は何のお話を作ろうか?君が先生になったらどうする?」
ごっこ遊びを通じて、想像力と役割演技の力を引き出します。
「この絵本の次はどうなると思う?」
物語の流れを予測するよう促し、論理的思考や推測力を育てます。
「どんな色を使ったら、この絵がもっと楽しくなるかな?」
創造的な選択を促し、自発的な意思決定をサポートします。
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【ピアジェの認知発達理論】具体的操作期(7〜11歳)の保育
具体的操作期と呼ばれる発達段階にまで成長した子どもは、論理的な思考が可能になり、具体的な物事を通じて学びます。
この時期に、保育士さんが関わるのは学童保育や放課後等デイサービスといった就学児童を対象とした施設が多いかもしれません。このような現場では、問題解決型のアクティビティやグループ活動が効果的と言えるでしょう。
この段階では、論理的思考や問題解決が発展するため、子どもの考える力をサポートする問いかけや、チームで協力する声かけができるとよいかもしれません。
保育現場での取り入れ例
具体的な物事を通じて論理的な思考を育むための具体的操作期の保育アイデアです。
- パズルや組み立て遊びで問題解決力を高める
- チームで取り組むゲームで協力する力やルールを守ることを学ぶ
- 物理的な実験(例:水に浮かぶものと沈むもの)を通じて因果関係を学ぶ
- 算数ゲームや簡単な計算を遊びに取り入れる
効果的な声かけ例
上記の保育例に加えて、保育士さんが行なうと効果的な声かけの一例です。
「このパズル、どうやったら全部のピースがはまるかな?」
問題解決に挑戦することで、論理的思考を促進します。
「このゲームのルールを説明してくれる?」
他者に説明することで、ルールや論理的な考え方の理解を深めます。
「みんなで協力してできるにはどうしたらよいと思う?」
協力する力やリーダーシップを育てるためのサポートを行ないます。
【ピアジェの認知発達理論】形式的操作期(11歳〜)の保育
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認知発達理論では、この時期になると、子どもはこれまでの積み重ねによって抽象的な概念や複雑な問題を考えることができるようになるとされています。
この時期には、論理的な思考をさらに発展させるためのチャレンジングな課題を提供する機会を作れるとよいでしょう。
抽象的な思考が発展するこの時期は、ディスカッションや仮説の立案を促す声かけが効果的なようです。子どもの自主性にまかせながら論理的に考える力をサポートし、挑戦する姿勢を引き出せるとよりよいかもしれません。
保育現場での取り入れ例
論理的な思考をさらに発展させるための具体的操作期の保育アイデアです。
- 理科実験で子どもたちが自ら仮説を立てて、結果を検証する
- ディスカッションを通じて異なる視点を理解する
- 社会的な問題をテーマに、子どもが自分の意見を述べる
- チームプロジェクトで役割分担と問題解決を学ぶ
効果的な声かけ例
上記の保育例に加えて、保育士さんが行なうと効果的な声かけの一例です。
「その意見をみんなに理解してもらえるよう、どう説明するのがよい?」
自分の意見を他者に伝える能力を育てます。
「このゲームのルールを説明してくれる?」
他者に説明することで、ルールや論理的な考え方の理解を深めます。
「みんなで協力してできるにはどうしたらよいと思う?」
協力する力やリーダーシップを育てるためのサポートを行ないます。
出典:子どもの道徳性の発達に関する心理学的研究/文部科学省
出典:幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方に関する調査研究協力者会議(第5回)配付資料/文部科学省
ピアジェの認知発達理論を保育に活かそう
ピアジェの認知発達理論は、一見すると難しそうに感じるかもしれませんが、保育士さんが子どもの発達を理解するための強力なツールと捉えるとよいかもしれません。
それぞれの発達段階における子どもの特性に応じた保育アイデアや声かけを通じて、子どもたちの学びを深め、成長を支えることができそうですね。
保育士として、理論に基づいた柔軟な対応を心がけることで、より子どもたちの活気があふれる保育現場を目指せるとよいでしょう。
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