障がい児保育における個別指導計画は、子ども一人ひとりの特性やニーズに合わせた指導・支援を行なうための重要なツールです。しかし、具体的な作成方法や活用方法がわからないという方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、障がい児保育における個別指導計画について、支援計画との違い、その必要性や作成・活用方法などを紹介します。
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目次
障がい児保育とは
障がいを持つ子どもたちの健やかな成長と発達を支援するための専門的なケアが、障がい児保育です。
知的障がい、発達障がいなどから、肢体不自由児、視覚・聴覚障がいなど、日常生活においてさまざまな困難を抱える子どもたちに対し、適切な支援を提供することを目的としています。
各地域には児童発達支援施設や放課後等デイセンターなどの専門施設が設置され、保育士や児童指導員、また必要に応じて看護師などの専門スタッフが従事しています。
これらの施設では、日常生活訓練や医療的なケアなどさまざまな支援を通じて、障がいを持つ子どもたちの生活の質の向上と社会参加を後押ししています。
また、一般の保育園や幼稚園、小・中学校でも障がい児保育・教育が行なわれています。
障がい児保育を総合的に支援するのが、地域ごとに設置された児童発達支援センターの役割です。
センターは療育を直接行なうかたわら、各施設への相談対応や助言指導、専門施設と一般施設の連携、保護者や支援機関との調整なども担う、地域の障がい児保育の中核として機能しています。
障がい児保育の現場では、障がいの有無に関わらず全ての子どもたちの健全な育ちを支える環境づくりと、インクルーシブな社会の実現に向けた取り組みが求められています。
障がい児保育における個別指導計画とは
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障がい児保育における個別指導計画は、障がいを持つ子ども一人ひとりの特性やニーズに基づいて、具体的な指導内容を計画するものです。
児童発達支援施設や放課後等デイサービスなどの施設では、障がい児保育を行なうにあたって個別の支援計画を立てる必要があります。
では、この「支援計画」と「指導計画」の違いはどこにあるのでしょうか。
総務省が公表している資料「発達障害者支援に関する行政評価・監視-結果報告書」では、発達障がい児への支援計画・指導計画の作成について、以下のように示されています。
出典:発達障害者支援に関する行政評価・監視-結果報告書 表2-(3)-⑥保育所及び学校における支援計画及び指導計画の作成対象範囲の比較/厚生労働省
このように、支援計画と指導計画においては、支援計画が全ての子どもに対して作成する必要があるのに対して、指導計画は上の表のように「3歳以上は必要に応じて作成」となっていることが大きな違いと言えます。
この策定は、保育所・幼稚園および小学校以上の学校に対するものであり、障がい児保育の専門施設である児童発達支援施設や放課後等デイサービスなどでは、支援計画の作成のみが求められているようです。
また、発達障がい児への指導計画は、文科省が公表している「小・中学校におけるLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)、高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案」内の資料において、小学校および中学校における作成方法が示されています。
しかし、幼稚園および高等学校については特に記述がないことからも、学齢・年齢層によって作成そのものについての推奨度合いが異なることも分かります。
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障がい児保育における個別指導計画の重要性
個別指導計画を作成することの重要性に関しても考えていきます。
作成したことによる効果として、以下のような事例があるようです。
- 特別支援学校など関係機関による助言や保護者との連携が図られ、効果的な支援が行なわれた
- 支援計画の作成に際して保護者と面談を行ない、児童の様子を共有して目標や支援方法をともに考えるなどの連携が図られ、医療機関の受診につながった
- 未就学児では保護者との連携により、小学校の見学に行くなど就学に向けての支援が進んだ
- 授業中に大声を出す、席に座っていられないなどの状況がみられた生徒について、巡回相談員(臨床心理士)の助言を受けて支援計画を作成し、見通しをもった指示や声かけを行ない、1年間継続して支援を行った結果、落ち着いて着席して授業に参加できるようになり、進級することができた
また、指導計画が必要であったにもかかわらず未作成だった場合に、不登校などの二次障害が生じたとみられる例も多く見られているようです。
指導計画の作成は、子ども一人ひとりに合わせた指導内容の明確化と、作成にあたって保護者や専門家と連携して適切な指導を行なうことにつながるなどの利点があります。
支援にとって重要であるだけでなく、本人のみならず指導者・保育者にとってもメリットが大きいと言えるでしょう。
障がい児保育における個別指導計画の作成方法
保育園児を対象にした障がい児保育における指導計画の作成は、保育園や小・中学校といった子どもの年齢ごとに以下のように定められています。
保育所での作成手順と運用
保育園児を対象にした障がい児保育における指導計画の作成は、保育所保育指針にもとづき、特別な配慮を必要とする子どもの保育を指導計画に位置づけることが求められています。
この「保育所保育指針」では、障がい児保育における指導計画を以下のように定めています。
障害のある子どもの保育については、一人一人の子どもの発達過程や障害の状態を把握し、適切な環境の下で、障害のある子どもが他の子どもとの生活を通して共に成長できるよう、指導計画の中に位置付けること。また、子どもの状況に応じた保育を実施する観点から、家庭や関係機関と連携した支援のための計画を個別に作成するなど適切な対応を図ること。
保育所保育指針には、障がい児保育の指導計画作成について以下の手順が示されています。
(1)
子どもにとっての課題について、日常の様子を観察し、課題が生じやすい場面や状況、理由を適切に分析する。
(2)
子どもの特性や能力に応じて、個別の場面に適した行動などの具体的な目標を立てる。
(3)
目標を達成するための援助の内容を指導計画に盛り込む。
(4)
目標を、1週間から2週間程度を目安に少しずつ達成していけるよう設定づける。
上記のように個別の指導計画を作成したら、クラスの指導計画などと関連づけておくことも非常に大切とされています。
その際には、個別の障がいの状態を踏まえた上で、生活や遊びに取り組む姿、活動への関心や参加の様子、さらには友達との関わりなどをていねいに把握して、環境構成や援助を行なう上で必要な配慮について具体的に見通すことも必要です。
このように保育所では、障がいや発達上の課題のある子どもが、ほかの健常児とともに成功する体験を重ね、子ども同士が落ち着いた環境で共生を学ぶための工夫が必要です。
小・中学校での作成手順と運用
文部科学省が策定した資料「特別支援教育について」では、小中学校における個別の指導計画の立案・作成について以下のように定めています。
気付きから手立てへ
気付きと理解の次は、特別な教育的支援を必要とする児童生徒一人一人に、具体的にどのように支援していくかを検討し、一人一人の教育的ニーズに応じた計画を立てます。それが個別の指導計画の立案です。個別の指導計画は、校内関係者との連携のもとに校内委員会で作成しますが、ここでの話合いで担任のもつ様々な情報が必要になります。したがって、担任の日々の記録が大切になります。
個別の指導計画の立案・作成は、主に次のような手順で行なうことが考えられます。
(1)
担任が観察した様子、保護者や関係者の情報(会議記録)、個別に蓄積されたファイルなどから、配慮や支援が必要な実態を把握する。
例)「文字読みが苦手」「文字がうまく書けない」「集中が続かず他のことに気をとられてしまう」
(2)
児童生徒にとっての具体的な目標を単元、学期、学年ごとに設定する。目標は個別の行動に焦点を絞って設定する。
例)「指示を理解する」「机上を整理する」「ワークシートの枠中に文字を書く」 (3)
目標に対する具体的な手立てを設定する。
例)「保護者と1週間ごとに情報交換をする」「さりげなく応援してくれる友達を同じグループにする」「座席の位置を前にする」
(4)
具体的な支援内容を設定する。
例)「全体への指示の後、その子に指示をして理解したかどうかチェックする」「1時間目の開始までに机上に学習の準備ができるよう特製のチェック表を導入する」「大きめのマス目のワークシートを用意する」
上記の手順で作成した指導計画に沿って指導を実施した結果を、定期的に校内委員会で評価します。
指導計画にもとづいた指導を行なっても状況が変わらない場合には、巡回相談員の活用も図りつつ、目標の設定や課題の内容、具体的な手立ての設定などを見直していくことが必要です。
障がい児保育における個別指導計画のフォーマット例
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個別の指導計画の様式例として、以下のようなフォーマットが参考になるでしょう。
以下の様式例は、総務省による「発達障害者支援に関する行政評価・監視-結果報告書」の「(3)発達障害児に関する支援計画及び指導計画の作成の推進」を参照の上作成しています。
指定のフォーマットはないため任意で作成できますが、様式として推奨されているのは以下のような書き込み内容です。
- 現在の実態を項目ごとに詳しく書き込める
- 長期目標や主な指導の場と、学期ごとの取り組みを分けて書き込める
- 収集した実態を分析し、指導の方向性を検討できる
また、進級・進学時の引き継ぎに必要な詳細記録は別途記載している学校などもあるようです。
出典:発達障害者支援に関する行政評価・監視-結果報告書/総務省
出典:特別支援教育について 第3部学校用(小・中学校)/文部科学省
障がい児保育の指導計画作成は関係者と密な連携を
障がい児保育の現場で作成する指導計画について、支援計画との違いや作成の手順、作成の重要性などについて見てきました。また、任意の作成様式の一例についても紹介しました。
保育所、小・中学校では、適切な指導計画を作成することで、その内容を常に見直し、関係機関や専門家、保護者などと連携しながら指導を行ない、適切な支援につなげられるとよいでしょう。
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