保育現場で重要とされる「環境構成」を、障がい児保育で参考にしてみましょう。環境構成は単に設備や空間を整えるだけではなく、子どもの個性や発達段階、ニーズを理解し、心身ともに安心して過ごせるインクルーシブな空間を創造することと考えられます。今回はガイドラインを参考に、障がい児保育における環境構成について考えます。
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目次
障がい児保育における環境構成とは
未就学の障がい児保育を行なうための施設が指針としている「児童発達支援ガイドライン」には「児童発達支援の環境」として、支援者や施設が整えるべき環境を以下のように示しています。
児童発達支援の環境には、児童発達支援に携わる職員や子ども等の人的環境、施設や遊具等の物的環境、更には自然や社会の事象等がある。児童発達支援センター等は、こうした人、物、場等の環境が相互に関連し合い、子どもの生活が豊かなものとなるよう、次の事項に留意しつつ、計画的に環境を構築し、工夫して児童発達支援を行わなければならない。
環境を整えることは、障がい児保育において重要なポイントとなります。施設全体の環境づくりはもちろんのこと、個別支援計画を作成する際にも考慮する必要があるでしょう。
障がい児保育におけるこのような環境づくりは「環境調整」「環境設定」などと呼ばれます。
健常児の保育現場では、保育計画や保育案を作成する際に同様の環境づくりを示す必要があり、これは「保育所保育指針」にもとづき「環境構成」と呼んでいます。
この記事内では、障がい児保育においての環境づくりに関しても、保育士さんになじみが深い「環境構成」という用語を使用して解説していきます。
【障がい児保育の環境構成】3つの要素
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障がい児保育の環境を構成する要素としては、以下の3つの要素が挙げられています。
- 人的環境
子ども自らが環境づくりに関わり、自発的に活動する中でさまざまな経験を積んでいくことができるよう、職員が事前に配慮する。
- 物的環境
子どもにとって豊かな活動が展開されるよう、施設内外の設備や環境を整え、子どもたちが過ごす場所の保健的環境や安全の確保などに努める。
- 居場所としての環境(自然・社会的環境)
子どもが生活する空間は、温かな親しみとくつろぎの場として整備する。また個々の障がいの特性を踏まえながら、活き活きとした生活が送れるよう整備する。
人と関わる力を育てるため、周囲の子どもや大人と関わることができる社会的な機会や環境を整える。
五感や発達、身体上の理由などで日常生活における障がいを抱える子どもたちに対しては、一人ひとりの個性やニーズを理解し、心身ともに安心して過ごせる空間を創造することが大切です。
施設運営や個別の障がい児保育の現場で行なう療育をより効果的なものにするために、3つの要素を踏まえて計画的に環境を整え、豊かな成長を促すことを意識しましょう。
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【障がい児保育の環境構成】人的環境の構築
障がい児保育において「人的環境」は特に重要と言え、子どもそれぞれの特性を理解し適切な支援を提供できる保育人材は不可欠です。具体的には、次のような点を重視して環境構成に努めましょう。
子ども一人ひとりの特性やニーズに合わせた保育士の配置
児童発達支援や放課後等デイサービスなどの施設では、子どもの障がいや抱えている問題に合わせて個別支援の時間や計画的な支援体制を構築する必要があるでしょう。
適材適所の配置は障がい児保育における重要な環境構成の一つです。
発達障がいの子どもは専門研修を受けた保育士や児童指導員が担当し、医療的ケア児には看護職員や専門的な知識や技術を備えた保育士を配置するなどがこれにあたるでしょう。
保護者との連携体制の構築
障がい児保育は、同時に障がい児の家族の支援とも密接につながっています。
支援するスタッフは常に保護者との定期的な面談を行ない、子どもの状況を共有しながら支援を進める必要があるでしょう。
そのための環境構成として、施設内に家族が付き添えるスペースを確保することや保育室を解放して見学できる時間を設けることなど、子どもと保護者の双方向に安心感を提供できる工夫が考えられそうです。
また、保護者と支援スタッフが協力して支援にあたるための説明会や研修会の開催も効果的と言えます。
【障がい児保育の環境構成】物的環境の整備
障がい児保育で児童の安全と快適性を確保し、発達を促す重要な役割が「物的環境」です。バリアフリーな施設環境を整備し、五感に訴える教材や遊具を用意することもこれにあたるでしょう。
バリアフリーな施設環境の整備
車椅子や歩行補助器具の利用者が安全に移動できるよう段差を解消することは、施設内で最低限配慮するべき環境構成でしょう。スロープや導線に物を置かないこと、圧迫感を解消することも大切です。
また、設備上整えていても、実際に子どもが使用した際にトラブルや事故につながりそうなポイントがあれば素早く察知して対応できるよう、日々点検や観察をすることも環境構成につながります。
五感に訴える教材や遊具の用意
さまざまな素材や質感の遊具や教材を用意し、触覚や視覚を刺激することは、療育の大きなポイントの一つです。日常生活の中で使用するものや、遊具などにも工夫が必要でしょう。
音楽や音声を活用して聴覚を刺激することや、香りや光を活用し、五感に訴える活動や遊びなどは、子どもの発達を促すと言われます。効果的に環境構成に取り入れられるとよいでしょう。
作業療法士などの専門スタッフと現場の保育士や指導員が協働することで、子どもの個性に合った環境づくりにつながりそうです。
安全性を確保した環境づくり
環境は、準備するだけでなく定期的に点検・修理を行なうなどのメンテナンスが必要です。遊具や教材の安全性を確認し、子どもたちが安全に過ごせるよう、適切な監督を行ないましょう。
また、災害やセキュリティ上の問題など緊急時の対応についても、職員が事前にしっかり把握・訓練しておくことが大切です。
【障がい児保育の環境構成】居場所としての環境整備
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子どもたちが社会の一員としての自覚を育むためのサポートは、障がい児保育にとって大事な要素でしょう。そのために心の拠りどころとなる居場所や社会経験の機会などの「場づくり」が必要です。
合理的配慮による整備
「合理的配慮」とは、障がいのある児童一人ひとりの状況に応じて、環境や支援内容を適切に調整することを意味します。これは障がいのある子どもたちが、健常児と同等に成長する権利を確保するための配慮です。
たとえば、視覚障がいのある子どもが情報を把握するために点字や音声案内を設置したり、聴覚障がい児には手話通訳や視覚支援ツールを活用したりする、視覚支援が効果的な自閉症児には理解しやすい絵カードやスケジュールを提示することなどがこれにあたります。
このように、子どもの障がいに合わせた柔軟な対応が常にできる環境構成が重要です。
地域社会との交流機会
子どもが今後成長していくために社会性を身につける機会創出も、障がい児保育や支援者の大きな役割と言えるでしょう。
一般の保育所と提携したインクルーシブ保育、ほかの療育施設との交流保育などが効果的かもしれません。また、地域のお祭りやイベントなどへの定期的な参加などを通して、子どもたちが社会の一員として活動できる環境を作るのもよいでしょう。
幼児期から社会参加を積み重ねることで、成長してからの就労支援にもよい影響をもたらすことも期待できます。地域にとっても障がい児への理解を深める大切な機会となるかもしれません。
多様な価値観に触れる
日常保育の中で、さまざまな価値観に触れる機会を創出できるとよいでしょう。食育を考慮したクッキングや壁面などの巨大アート製作、目的を持った街歩きなど家庭で体験しづらいものが効果的です。
この際も、子どもにとってより動きやすい環境構成を行なうことが大切です。体験するスペースの整備、動きやすさ、情報の伝え方や子どもの興味関心を引き出す声かけなどに工夫しましょう。
出典:障害のある子どもが十分に教育を受けられるための合理的配慮及びその基礎となる環境整備/厚生労働省
障がい児保育の環境構成は子どもの個性・特性に寄り添って
保育と支援の両面で大切とされている「環境構成」について、障がい児保育の各種ガイドラインを参考にしながらその意義や手法のポイントを考えてきました。
子どもの療育をより効果的に促す手助けとなる人的環境・物的環境・自然や社会といった場づくりを整備するという考え方を知ると、障がい児保育の現場でできる可能性が広がるのではないでしょうか。
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