近年、インクルーシブ教育の推進や障がい児に対する理解の深まりにより、障がい児保育への関心が高まっています。障がい児への保育は子どもたちが社会の一員として自立するための重要な役割を担っています。今回は、障がい児保育を行なう施設についての調査結果から読み取れる現状や、ガイドラインの改定などから見える傾向について考えます。
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目次
障がい児保育とは
障がい児保育とは、障がいを抱える子どもたちが社会の一員として不自由を感じることなく健やかに育つことを支援する保育活動を指します。
対象となる障がいは、知的障がい、発達障がい、身体障がい、視覚や聴覚の障がいなど、幅広いことが特徴です。
支援には、一人ひとりの障がいの状態や特性に合わせた専門的できめ細かい配慮を行なう必要があります。
未就学児の障がい児保育は、主に一般の保育所や幼稚園、認定こども園で行われています。専門施設としては「児童発達支援施設」、就学から18歳までは「放課後等デイサービス」などの専門施設において支援が提供されています。
これら専門施設の利用にあたっては、障がい者手帳や医師の診断書を添付して自治体に利用申請をした上で支給される受給者証が必要です。そのため支援を強く必要とする子どもが集まり療育を受けられる施設として、障がい児保育の大きな一翼を担っていると言えるでしょう。
専門施設はもちろん、一般の保育・幼児教育施設にも、障がいの有無にかかわらずすべての子どもが健やかに育つためのインクルーシブな環境を整備することが求められています。
施設の体系から見る障がい児保育の現状
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国が主導する障害福祉サービスの中には、0歳から18歳までの子どもを対象とした障がい児保育の施設として、以下のように年齢や障がいの程度・必要な支援によるさまざまな施設が設置されています。
これらの、通所、訪問、入所、相談支援といったそれぞれの施設を統括する役割で、地域ごとに設置されているのが「児童発達支援センター」です。
児童発達支援センターは、支援現場としての機能と利用者の相談支援および施設の相談窓口などの役割も担います。地域の障がい児保育にかかわる各施設と利用者を包括的にサポートする施設ととらえてよいでしょう。
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数字から見る障がい児保育施設の現状
障がい児保育が行なわれている施設から、主となる児童発達支援施設・放課後等デイサービスの2施設について見ていきながら、障がい児保育の現状を考えていきます。
ここでは、厚生労働省の調査より2022年の事業所数・従事者数・利用者数をまとめました。
児童発達支援施設
0歳から就学までの児童を対象とした、児童発達支援施設についてのデータから見ていきましょう。
事業所数は飛躍的な増加を遂げており、2022年は15.9%の増加となりました。この伸び率は、調査対象とされている社会福祉サービス事業の中で2番目に高い結果です。
児童発達支援施設の人員配置基準は、児童発達支援管理責任者1人以上、また子ども10人に対して児童指導員・保育士・障害福祉業経験者のうちいずれかを2人以上配置することが義務づけられています。
また地域の障がい児保育の拠点となる児童発達支援センターの配置基準はやや異なり、子ども4人に対して児童指導員および保育士1人以上、また全体において児童発達支援管理責任者・児童指導員・保育士の各1人以上配置が定められています。
このため、従事者の内訳としても特に児童指導員と保育士のニーズが高いことが分かります。
ほかにも「障害福祉業経験者」「その他」の人数が多いことからも、特定の有資格者だけでなく幅広い人材が求められていることも見て取れるでしょう。
放課後等デイサービス
放課後等デイサービスは、児童福祉法第6条の2の2第4項の規定に基づき、大学を除く小学校以上の学校に就学している障がい児が、授業の終了後または休業日に利用できる施設です。
こちらも厚生労働省の調査より、2022年の事業所数・従事者数・利用者数をまとめました。
事業所数では、放課後等デイサービスの増加率はほかの社会福祉サービスの中でも居宅介護事業、重度訪問介護事業に次ぐ伸び率が見られ、障がい児保育を行なう事業所の中では増加率が最も高くなっています。
また、利用人数は調査対象となった社会福祉サービス事業の中で最も多い人数となっており、利用者1人あたりの利用回数は6.9回と高い利用率も見られます。
このように、未就学を対象とした児童発達支援施設および支援センター、小学生以上を対象とした放課後等デイセンターのいずれも、利用者数や従事者数ともに年々増加傾向にあるようです。
利用者の傾向から見る障がい児保育の現状
厚生労働省の調査によれば、国が特別支援加算の算定対象者となる利用児童が1人以上いる事業所では、対象者の年齢は、全体の平均で4.7歳。
内訳としては、児童発達支援では4.0歳、放課後等デイサービスでは9.6歳が平均値となっています。
利用者数では放課後等デイサービスが多くを占めているものの、実際の平均年齢は児童発達支援施設に近い数値となっていることからも、総合的には4歳前後から小学校低学年にかけての利用者が集中していること、この年代に特に手厚い療育が必要とされていることが分かります。
性別は、男が68.3%・女が30.9%となり、男子がやや多い数値になっています。
発達障がいを性別という観点で見た際に、男子の方が比較的早期発見につながりやすいことが指摘されていることともこの結果と一致するようです。
このような要因からも、全国的に障がい児保育の現場では女子の割合が少なく、成長するごとに女性の数はやや増える傾向があると言われています。
また、対象者の主な障がい種別は、「発達障がい」が44.8%、「知的障がい」が31.6%となっており、これは社会的に発達障がいに関する理解や知見がより認知されていることにも要因がありそうです。
ガイドライン改定から見る障がい児保育の現状
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障がい児保育の現場の両翼を担う児童発達支援と放課後等デイサービスは、ともに国が策定したガイドラインにもとづいて支援を進めています。
このガイドラインは、厚生労働省やこども家庭庁などが行なう調査や児童福祉法改正、また社会的ニーズなどにもとづき、より最適化されるべく定期的に改定されています。
障がい児保育における支援の質の確保と向上をより高めるため、国が定めている「児童発達支援ガイドライン」「放課後等デイサービスガイドライン」が改定され、2024年4月より施行されました。
この改定においては「支援の全体像」として両ガイドラインに以下の文言が追加されています。
こども家庭庁の創設によりこども施策全体の中で障害児支援を進めることとされたことや、こども基本法におけるこども施策の基本理念、こどもの権利条約や障害者の権利に関する条約の内容を踏まえ、インクルージョンを推進するとともに、こどもの意見表明の機会の確保や、年齢や発達の程度に応じたこどもの意見の尊重、こどもの最善の利益の保障を考慮し、支援を行うことが重要である。
上記の文言が追記されたことで、障がい児保育における国際的・社会的な役割が、施設や対象年齢・障がいの種別を問わず明確になりつつあることが見てとれると言えます。
また、これまでも児童発達支援ガイドラインにおいて支援の具体的内容における5領域「健康・生活」「運動・感覚」「認知・行動」「言語・コミュニケーション」「人間関係・社会性」を支援の柱とする旨の文言が、放課後等デイサービスガイドラインにも追加されました。
それに付随して、両方に「全てのこどもに5領域の視点を網羅したオーダーメイドの支援が行われることが重要」との内容も追記され、より支援内容の具体化が見られるようです。
これらのガイドライン改定からも、障がい児保育全体の支援内容や基本理念が効果的に連携することが求められていることが分かります。
ほか大きな改定としては、施設の在り方として以下の内容が挙げられます。
- 児童発達支援センターが地域における障害児支援の中核的役割を担うことの明確化
- 障がい種別にを問わず支援するために児童発達支援の類型(福祉型、医療型)を一元化
これらによって利用者などのニーズ拡大とともに、支援の方向性や施設の体系、運用が明確になることでさらなる役割・機能の強化と支援の質の向上が期待されています。
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障がい児保育の現状を知れば保育士の働き方も見えてくる
障がい児保育の主要施設と言える児童発達支援施設・支援センターと、放課後等デイサービスにおける現状を見ていきながら、障がい児保育の現在について考えました。
利用ニーズの高まりとさまざまな課題の検討により、支援内容や理念がより子どもたちに行き届くためのさらなる支援のアップデートが行なわれているようです。
子どもたちへの支援内容や質の向上・施設の役割はもちろんですが、保育士や児童指導員など現場スタッフの働き方・待遇への改善にも注目していきたいですね。
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出典:児童発達支援・放課後等デイサービスの現状等について/厚生労働省
出典:令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容/厚生労働省