企業主導型保育事業とは、内閣府管轄の企業向けの助成制度です。他の企業と利用契約書を結んで共同利用できたり、仕事と子育てを両立する保育ニーズに対応したりとさまざまな特色があるため気になる方も多いかもしれません。今回は、企業主導型保育事業とはなにか、保育料無償化や地域枠、処遇改善等加算の取り組みに加え、事業所内保育との違いについても紹介します。
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目次
企業主導型事業とは
企業主導型保育事業とは、内閣府が2016年から始めた企業向けの助成制度のことです。
内閣府「1. 企業主導型保育事業の制度の概要と企業のメリット」の資料によると、企業主導型保育事業とは、企業が従業員の働き方に応じて柔軟な保育サービスを提供するために設置する施設や、地域の企業が共同で設置、または共同で利用できる保育施設に対して、整備費および運営費の助成を行うことと説明しています。
内閣府の資料をもとに企業主導型保育事業について、さらに具体的に見ていきましょう。
企業主導型保育事業の特徴
企業主導型保育事業にはどのような特徴があるのでしょうか。
企業主導型保育事業には、
- 認可外保育施設のため保育ニーズに対して柔軟に対応できる
- 複数の企業で保育施設を共同利用ができる
- 企業の従業員だけでなく、地域の子どもたちも受け入れることができる
- 認可保育施設と同等の補助金制度や助成制度が利用できる
などの特徴が挙げられるでしょう。
企業主導型保育事業は、多様化する保育ニーズに対しても柔軟に対応し、複数の企業で共同利用、共同経営ということも可能です。
さらに、企業主導型保育事業では補助金制度や助成金制度が利用できますし、企業の従業員以外にも地域の子どもたちを受け入れることで、地域貢献にもつながるかもしれません。
次に、企業主導型保育事業の分類や地域枠、共同利用契約などのくわしい概要について説明します。
国からの認可を受けていない認可外保育施設
企業主導型保育事業は、国の認可基準を満たしていない認可外保育施設に分類されます。
国の認可を受けていないものの、認可外保育施設は都市部では駅から近い場所にあるなど保護者の保育ニーズに合わせた小規模な施設が多く、独自の保育・教育方針を掲げているところもあるため、近年人気が上がってきているようです。
企業主導型保育事業によって開設した保育施設は「企業主導型保育園」、「企業主導型保育所」と呼ばれ、主に企業で働く従業員の子どもを預かることになります。
企業内に保育施設があるため、夜遅い時間や土日、祝日など従業員の働き方に合わせて子どもを預かるところもあるでしょう。
さらに、企業主導型保育園の大きな特徴として、企業で働く従業員の子どもだけでなく、他の企業で働く従業員の子どもや地域で保育を必要とする子どもを預かることができるというメリットが挙げられます。
企業主導型保育事業の施設は国の基準を満たしていない施設ではありますが、原則として毎年1回は児童育成協会による監査が入ります。その監査とは別に、抜き打ちで監査が行われますし、結果はきちんと公表されるため安全にも配慮している事業といえるでしょう。
共同利用契約がある
内閣府「仕事・子育て両立支援事業の概要」の資料によると、企業主導型保育事業は、企業が単独で保育施設を開設、運営する単独設置型、他の企業と共同で利用したり、共同で運営したりする共同利用型、保育事業者に運営を依頼する保育事業者設置型があると説明しています。
設置方法についてくわしく見ていきましょう。
企業主導型保育園を単独設置し、設置した企業のみが単独で利用する
企業主導型保育園を単独設置し、設置した企業のみが単独で利用する場合は、企業主導型保育園を1つの企業のみで設置、運営を行います。
この方法では、企業内に子育て世代が多くいる場合など、地域の子どもを受け入れる地域枠を設定しないこともできるため、企業で働く従業員の状況に合わせて保育施設を利用する子どもの定員を決めることができるものとなっています。
企業主導型保育園を単独設置し、他の企業と共同利用する
企業主導型保育園を単独設置し、他の企業と共同利用する場合は、企業主導型保育園を1つの企業のみで設置、運営を行いますが、他の企業と共同で利用するときは共同利用契約を結ぶことになります。
他の企業と共同で利用する際、利用する企業の利用定員数や費用負担などを明確にする必要があります。そして、その内容をまとめた「共同利用契約書」をよく確認してから契約することが大切といえるでしょう。
他の企業と共同利用することで、運営する側は安定して子どもの数を確保できるかもしれません。子どもが定員に達しない場合は、全定員数の2分の1以下の人数であれば地域枠を設定できます。
企業主導型保育園を他の企業と共同設置し、他の企業と共同利用する
企業主導型保育園は他の企業と共同設置し、共同で利用することができます。
1つの企業で設置、運営を行うとどうしても負担が大きくなってしまいがちです。
そこで、他の企業と共同で設置し、運営を行うことにより、運営のリスクや設置の際に必要になる初期費用を分担することができるようです。
また、企業主導型保育園の状況によっては地域枠を設定することもできますし、特に設定せずに企業で働く従業員だけ受け入れることもできます。
企業主導型保育園を外部の保育事業者が設置し、企業が利用する
企業型保育事業は単独設置や共同設置を行えますが、利用する企業が設置して運営するのではなく、外部の保育事業者に委託することも可能です。
委託する場合は、運営する保育事業者と利用する企業とで利用契約を結びます。
保育事業者と企業の間で、子どもの定員人数や利用する費用の負担額を取り決め、保育施設の規模によっては1社のみや3社以上の企業と利用契約を結ぶ場合もあるようです。
このように、企業主導型保育事業は企業で働く従業員の子どもを預かるだけでなく、地域内の保育が必要としている子どもの受け入れも行っています。そのため、企業の福利厚生としてメリットがあるだけでなく、待機児童の解消など地域貢献も行える事業といえるでしょう。
出典:1. 企業主導型保育事業の制度の概要と企業のメリット/内閣府
企業主導型保育事業の設置基準
冒頭で説明したように、企業主導型保育事業は国の基準を満たしていない認可外保育施設です。
しかしながら、企業主導型保育事業では小規模保育事業や事業所内保育事業などの認可保育施設と同様の設置基準が設けられています。
ここでは、企業主導型保育事業における職員の配置基準や資格、対象となる子どもの年齢、利用定員、設備や部屋の面積について説明します。
職員の配置人数
企業主導型保育事業の職員の配置人数は、子どもの定員20人以上の保育所と同じ配置基準に加えて1名以上の職員が必要となります。
以下は保育所の職員の配置人数です。
<保育所の配置人数>
- 0歳児の子ども3人に対して職員が1人
- 1歳児から2歳児の子ども6人に対して職員が1人
- 3歳児の子ども20人に対して職員が1人
- 4歳児以上の子ども30人に対して職員が1人
企業主導型保育事業の場合は、以上の保育所の設置基準に加えて1名が必要となるため、最低2人の職員を配置しなければなりません。
職員の資格
企業主導型保育事業に従事する職員の資格は、施設で働く保育従事者の半数以上が保育士資格を有している必要があります。
しかし、内閣府「子育て新制度」の資料では、特例として1人までは保健師、または看護師の資格がある職員を数に含めてよいとしています。 また、保育士資格がない方が企業主導型保育所で働く場合、子育て支援員研修などの研修を修了することが条件となっています。
対象となる子どもの年齢
企業主導型保育事業が開設する保育施設では、0歳児から5歳児までの子どもが受け入れ対象となっています。
そのため、企業主導型保育所は受け入れる子どもの年齢によって、職員の配置人数が異なります。さらに、0歳児から1歳児、または満2歳となっていない子どもを受け入れる場合と、満2歳以上の子どもを受け入れる場合では、必要な施設や部屋の面積が異なるので注意するようにしましょう。
利用定員
企業主導型保育事業には従業員枠とは別に、地域枠というものがあります。
従業員枠と地域枠についてくわしく見ていきましょう。
従業員枠
従業員枠とは、企業主導型保育所で受け入れる従業員の子どもの定員枠です。
企業内で働く従業員の子どもを受け入れることで、企業側は福利厚生の充実や女性職員の活躍を応援できるでしょう。
地域枠
地域枠とは、従業員以外で保育を必要としている地域の子どもの定員枠を指します。
企業主導型保育事業では、子どもの全定員数の2分の1以下であれば地域枠を設定できます。地域枠の設定は任意ですので、企業主導型保育所が従業員枠だけで定員が埋まってしまう場合などは、あえて設定しないということも可能です。
設備や部屋の面積
内閣府「企業主導型保育事業実施要綱の概要」の資料によると、企業主導型保育事業の設備や部屋の面積は、原則として事業所内保育事業の基準と同様となっており、子どもの年齢と定員数によって異なる部分があります。
子どもの定員が19人以下の場合
<保育室など>
・0歳児、1歳児
乳児室、又はほふく室 3.3m² /人
2歳児以上
保育室又は遊戯室 1.98㎡/人
<屋外遊戯場>
・2歳児以上
屋外遊技場 3.3m² /人
子どもの定員が20人以上の場合
<保育室など>
・0歳児、1歳児
乳児室 1.65m² /人
ほふく室 3.3m² /人
・2歳児以上
保育室又は遊戯室 1.98㎡/人
<屋外遊戯場>
・2歳児以上
屋外遊技場 3.3m² /人
ほかにも、企業主導型保育所は給食を提供するための調理室や、幼児用の便座がある便所も設置する必要があるようです。
このように、企業主導型保育事業の設置基準は国の認可を受けていないといっても、職員の配置人数や資格、利用定員、設備や部屋の面積は認可保育施設と同等の基準が適用されています。
出典:「企業主導型保育事業実施要綱の概要p1.2.7/内閣府」
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企業主導型保育事業における無償化の対象範囲
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内閣府「幼児教育・保育の無償化概要」の資料にあるとおり、必要な要件を満たせば、企業主導型保育事業は保育料の無償化の対象になります。
さらに、企業内に保育施設がある場合、一時預かりで利用したいという保護者の方も多いのではないでしょうか。その一時預かりの費用が無償化の対象になるかどうかも気になりますよね。
企業主導型保育事業における無償化の対象範囲についてくわしく見ていきましょう。
保育料無償化となる子どもの年齢
企業主導型保育事業では、企業主導型保育施設に通う「保育の必要性のある」3歳児から5歳児までの子どもが保育料無償化の対象となります。
また、企業主導型保育施設を利用する0歳児から2歳児までの子どもについては住民税非課税世帯かつ、「保育の必要性」のある子どもであれば無償化の対象となります。
内閣府「企業主導型保育施設の無償化に関する説明資料」の資料によると、企業主導型保育事業における保育の必要性のある子どもとは、企業主導型保育施設の従業員枠を利用している子どもと、地域枠を利用している市町村の保育認定(2号、3号)を取得している子どもとなっています。
そもそも「保育の必要性」のある子どもとは、
- 保護者の妊娠や出産
- 保護者の疾病・障害
- 同居や入院している親族の介護、看病
- 起業準備含む求職活動中である
- 虐待やDVのおそれがある
- 育児休業中の継続利用
などの理由を持つ子どもを指しています。
さらに内閣府「Ⅴ.保育の必要性の認定・確認制度」の資料では、保護者の申請を受けてから、市町村が上記で挙げた理由にあてはまるか客観的に判断し、基準にもとづいて「保育の必要性」を認定していると説明しています。
保育料無償化の対象となる保育料の金額
企業主導型保育事業の場合、保育の利用料から対象の年齢に応じて一定の金額が減額されます。
内閣府「企業主導型保育施設の無償化に関する説明資料」の資料によると、減額される「標準的な利用料」は、0歳児は3万7100円、1歳児と2歳児は3万7000円、3歳児は2万6600円、4歳児以上は2万3100円となっています。
ただし、通園するための送迎費、食材料費、行事費などは、これまでと同じく保護者の負担となるので注意しましょう。
保育料無償化を受けるための条件
企業主導型保育事業において保育料の無償化を受けるためには、どうすればよいのでしょうか。
内閣府「幼児教育・保育の無償化はじまります。」のホームページによると、企業主導型保育事業では、施設から配布される「企業主導型保育事業利用報告書」を利用している保育施設、もしくは自宅がある市区町村に提出する必要があるとしています。
また、保育料の無償化を受ける場合は、企業主導型保育施設を通して国から給付を受けることになるため、保育認定が必要になりますが、3歳児から5歳児で従業員枠を利用している子どもであれば認定の手続きは不要です。
反対に、地域枠で企業主導型保育事業を利用されている方は、市町村の保育認定(2号、または3号)を申請する必要があるので注意しましょう。すでに認定されている方であれば、手続きは不要となっています。
企業主導型保育事業は保育料の無償化の対象ですが、従業員枠と地域枠によって申請の方法が異なるなど、利用するにはそれぞれ条件があるため、お住いの市町村に確認してみるとよいでしょう。
一時預かりの場合は無償化の対象外になることがある
企業主導型保育事業では、一時預かり事業を行っているところがあります。
企業主導型保育事業の一時預かり事業は、「一般型」と「余裕活用型」の2種類と分けられます。
「一般型」は一時預かりの利用条件として満1歳以上としているため、0歳児は利用できません。一方、「余裕活用型」は園の定員人数よりも在園者数が少なく定員に余裕がある場合、在園児以外の乳幼児を預かっています。
内閣府「企業主導型保育施設が実施する一時預かり事業に係る幼児教育・ 保育の無償化に関する留意事項について」の資料では、企業主導型保育施設を利用している子どもが、一時預かりで施設を利用した場合の利用料は、無償化の対象とはならないとしています。そのため、一時預かりの利用者は企業主導型保育施設に利用料を支払うことになります。
一方、市町村による施設等利用給付認定(2号、3号)を受けているけれど、企業主導型保育施設を利用していない子どもが施設の一時預かり事業を利用した場合、利用料は無償化の対象です。
企業主導型保育施設を利用しているか、していないかによって、一時預かりをした際に無償化の対象範囲が異なるため、利用するときは事前に確認することが大切といえるでしょう。
出典:「企業主導型保育施設の無償化に関する説明資料/内閣府」
出典:「Ⅴ.保育の必要性の認定・確認制度P42~45/内閣府」
出典:「企業主導型保育施設が実施する一時預かり事業に係る幼児教育・ 保育の無償化に関する留意事項について/内閣府」
企業主導型保育事業における処遇改善等加算
企業主導型保育事業によって開設された企業主導型保育園で働いた場合、保育士の処遇改善は行われるのでしょうか。
そもそも保育士の処遇改善には、政府が実施した「処遇改善等加算」とよばれる制度があります。
厚生労働省「保育士のキャリアアップの仕組みの構築と 処遇改善について」の資料によると、処遇改善等加算とは、保育士と他の業種と比較した際の賃金差を少なくし、保育士の専門性や質の向上を目的とした施策の一つとしています。
ここでは、企業主導型保育事業における保育士の処遇改善等加算についてくわしく説明します。
処遇改善等加算の認定基準
処遇改善加算には「処遇改善等加算Ⅰ」と「処遇改善等加算Ⅱ」があります。
そのうちの「処遇改善等加算Ⅰ」は基礎分、賃金改善要件分、キャリアパス要件分の3つで構成されており、利用する際は認定が必要になります。
内閣府「子ども・子育て支援新制度市町村向けセミナー資料」によると、処遇改善等加算Ⅰの基礎分は保育士の平均経験年数に応じて加算率が設定されており、その加算率は施設や事業所を管轄する市町村長が取りまとめた上で、各都道府県知事が認定するという流れになっています。
そのため、処遇改善等加算Ⅰを利用するときは各都道府県知事の認定が必要といえるでしょう。
処遇改善等加算の支給額が決まる仕組み
処遇改善等加算Ⅰでは加算率を定めるために都道府県知事の認定が必要と説明しましたが、処遇改善加算はそもそもどのようにして支給額が決まるのでしょうか。
処遇改善等加算Ⅰと処遇改善等加算Ⅱでそれぞれ説明します。
処遇改善等加算Ⅰ
処遇改善等加算Ⅰは、基礎分、賃金改善要件分、キャリアパス要件分に分けられています。
まず、基礎分として保育施設で働く保育士の平均勤務年数によって、2%から12%の加算率が設定されています。
さらに、賃金改善要件分では、基準年度の賃金水準からの改善(国家公務員の給与改定に伴う人件費の改定率)をふまえて、保育士の平均勤続年数が11年未満であれば一律3%、11年以上は一律4%が加算されます。
キャリアパス要件分は役職や職務内容等に応じて必要な要件を満たしている場合はそのままですが、要件を満たしていない場合は賃金改善要件分から1%減となり、基礎分、賃金改善要件分、キャリアパス要件分を合計した加算率で処遇改善等加算Ⅰの支給額が決まります。
処遇改善等加算Ⅱ
処遇改善等加算Ⅱでは、国が定めた副主任保育士や職務分野別リーダーといった役職に就くことで、技能や経験を十分に積んだとみなされると、月額5000円以上4万円未満が給与に加算されます。
このほか、国では保育士の質の向上に関連して、役職に関係なく全職員に対して2%(月額6000円程度)の処遇改善加算を実施しています。
処遇改善等加算の適用における条件
保育士の処遇改善につながる処遇改善等加算ですが、企業主導型保育事業の場合も適用されるにはさまざまな条件があります。
処遇改善等加算が適用されるための条件について見ていきましょう。
処遇改善等加算Ⅰ
処遇改善等加算Ⅰの場合は、非常勤職員を含むすべての職員が処遇改善の対象となります。
ただし、加算率の対象となるのは、施設で働く常勤職員の平均勤務年数です。そのため、常勤職員の平均勤務年数が長い方が多いと加算率は高くなり、平均勤務年数が短い方が多いと加算率は低くなる傾向にあるといえそうです。
処遇改善等加算Ⅱ
処遇改善等加算Ⅱの場合は副主任保育士、専門リーダー、職務分野別リーダー、若手リーダーと役職によって条件が異なります。
勤務年数がおおむね3年以上、保育現場で専門的な対応が求められる分野の研修が修了していることなど、役職の条件をすべて満たすことで処遇改善を受けることができます。
このように、処遇改善等加算が適用されるには条件がありますし、事業者側が認定を受ける必要があるため、保育士の方は就職先の企業主導型保育園に確認してみるといいかもしれませんね。
出典:「保育士のキャリアアップの仕組みの構築と 処遇改善についてP1、2、4、5、10~12/厚生労働省」
出典:「子ども・子育て支援新制度市町村向けセミナー資料/厚生労働省」
企業主導型保育事業の助成金・補助金制度
企業主導型保育事業では、要件を満たすことによって、認可保育施設と同程度のさまざまな助成金、補助金制度を利用することができます。
そもそも、企業主導型保育事業で利用できる助成金制度や補助金制度は内閣府の所管ですが、助成決定の結果発表や助成金、補助金制度の公募などは、実施機関である「公益財団法人 児童育成協会」が行っています。
内閣府の資料をもとに、企業主導型保育事業の助成金制度と補助金制度についてくわしく説明します。
運営費の助成金・補助金制度
企業主導型保育事業では、運営費に助成金・補助金制度が利用できます。
運営費の助成金・補助金制度について見ていきましょう。
助成金
内閣府「助成対象のイメージ及び助成金(運営費・整備費)のイメージ」の資料によると、運営費の助成金制度は小規模保育事業などの公定価格を保育単価の基準とし、地域区分、定員区分、年齢区分、開所時間区分、保育士比率区分の5つの区分から割り出した金額を算出して助成額を割り出しています。
さらに、延長保育や夜間保育などを行っている企業主導型保育所では、要件を満たして助成決定となると助成金に加算されます。
補助金
内閣府「企業主導型保育事業費補助金実施要綱(改正案)」の資料によると、運営費の補助金制度は、企業主導型保育事業の実施者に対して、事業で必要となる経費を助成する事業としています。
実際に交付される金額は、施設を開設する都市や子どもの年齢、施設の定員人数などによって異なるようです。
整備費の助成金・補助金制度
企業主導型保育事業では、整備費に関しても助成金・補助金制度があります。
設備費の助成金・補助金制度について説明します。
助成金
企業主導型保育事業における整備費では、内閣府の資料によると地域区分と定員区分の合算を基準額とし、助成決定となると実際にかかった工事費用の4分の3相当を助成します。
ほかにも、子どもたちの安全性を考慮した工事や新たに土地を貸借して建物を整備する工事を行ったときは整備費に加算されます。
補助金
内閣府の資料によると、整備費の補助金制度は、企業主導型保育事業の整備のためにかかった費用を助成する事業となっています。
整備費の補助金制度は、企業主導型保育園を新たに開設するとき以外にも、増築や改築を行う際にも対象となります。ただし、土地を整備した際の費用や既存の建物の買収にかかった費用は対象外になることがあるようです。
出典:「助成対象のイメージ及び助成金(運営費・整備費)のイメージ/内閣府」
出典:「企業主導型保育事業費補助金実施要綱(改正案) /内閣府」
出典:「児童育成協会の企業主導型保育事業に関する実地調査結果 P9、10/内閣府」
企業主導型保育事業と事業所内保育事業の違い
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企業主導型保育事業について説明してきましたが、混同されやすい事業として事業所内保育事業が挙げられます。
では、企業主導型保育事業と事業所内保育事業は何が違うのでしょうか。
2つの違いについてくわしく説明します。
認可の有無が異なる
企業主導型保育事業と事業所内保育事業では、認可の有無が異なります。
はじめに説明したとおり、企業主導型保育事業の施設は国の基準を満たしていないため認可外施設となります。
一方、事業所内保育事業の施設は、保育園や幼稚園などと同じ国の基準を満たした認可施設に分類されます。
職員の資格
企業主導型保育事業と事業所内保育事業は、保育士の資格に違いがあります。
企業主導型保育事業は職員の2分の1以上は保育士資格が必要です。1名までは保健師、看護師、または准看護師があれば特例として問題なしとしていますが、それ以外の職員は、市町村などが行う研修を受講しなくてはいけません。
事業所内保育事業は子どもの定員が19人以下であれば、施設で働く保育従事者の半数以上が保育士資格を有している必要があります。定員が20人以上の場合は、保育に従事する職員は全員保育士資格が必要になります。(保健師、看護師、または准看護師の特例があります)
受け入れる子どもの年齢が異なる
企業主導型保育事業と事業所内保育事業は、施設で受け入れている子どもの年齢が違います。
企業主導型保育事業は、0歳児から5歳児までの子どもを受け入れることができます。
事業所内保育事業は、基本的に0歳児から2歳児までの子どもが対象となりますので、3歳児以降は受け入れることができません。そのため、事業所内保育施設では3歳児になると別の保育施設へ移動することになるでしょう。
地域枠の割合が異なる
企業主導型保育事業と事業所内保育事業の違いとして、保育施設で受け入れている地域枠の割合が異なることも挙げられるでしょう。
企業主導型保育事業は、地域枠が全定員の2分の1以内であれば自由に設けることができます。企業主導型保育園の定員や従業員の状況によっては、地域枠を設けていないところもあるでしょう。
一方、事業所内保育事業は内閣府「子ども・子育て支援新制度ハンドブック」の資料によると、従業員枠のほかに地域枠を必ず定めることとしています。地域枠の人数は施設全体の定員人数、国で定めている基準やその地域の事情に合わせて設定されます。
利用できる助成金や補助制度が異なる
企業主導型保育事業と事業所内保育事業では、利用できる助成金や補助制度にも違いがあります。
国の認可基準を満たしている事業所内保育事業では、国や自治体が実施する助成金制度や補助金制度を受けることできますが、認可基準を満たしていない企業主導型保育事業では、同じ制度を受けることができません。
しかし、先ほど説明したように企業主導型保育事業にも助成金制度や補助金制度があります。内閣府「企業主導型保育事業等」の資料では、運営費や整備費など認可施設と同等の助成が受けられるとしています。
企業主導型保育事業とは、国が行う企業向けの助成制度
今回は、企業主導型保育事業とは何かについて、事業の特徴や設置基準、保育料の無償化の適用範囲、助成金制度や補助金制度などを説明しました。
企業主導型保育事業とは、国が行っている企業向けの助成制度です。国の設置基準を満たしていない認可外保育施設ではあるものの、原則として年1回は監査が入りますし、児童福祉法に基づいて、都道府県へ届出の申請も行われています。
さらに、企業主導型保育事業は利用する企業が単独で設置や運営を行ったり、利用契約書を作成して他の企業と共同で運営したりと自由に選択できるという特徴もあります。保育事業者に委託することもできるため、初期費用や運営のリスクを軽減できるかもしれません。
また、企業主導型保育事業と似た事業として事業所内保育事業がありますが、認可の有無や職員の資格、助成金、補助金制度、地域枠の設定などに違いがあります。
企業主導型保育事業を行うことにより、企業で働く従業員の勤務状況や家庭環境に合わせて子どもを預けられるため、仕事と子育てを両立しやすくなりそうですね。そして、地域枠として地域の保育が必要な子どもを預かることで、地域貢献にもつながる事業といえるでしょう。