保育士さんは、子どもの命と大切な幼少期の時間を預かる、誇り高いお仕事です。ただその反面で、体力的・精神的に「辛い」と感じる場面も少なくないでしょう。今回のコラムでは、保育士さんが感じる辛さについて、どんなときに辛いと感じるのか、またその改善策についてまとめてみました。その辛さに向き合って考えてみましょう。
保育士さんにとって何が「辛い」?
保育士さんのお仕事で辛いと感じられるものには、長時間労働や人間関係のストレス、責任の重さなどが主に挙げられます。こうした辛さに対して、仕事の量、仕事の質、その他の辛さに分けて考えてみましょう。
仕事の量に対する辛さ
保育士さんが仕事の量について感じる辛さには、どのようなものがあるのでしょうか。
仕事の幅が広すぎる
保育士の仕事は「子どものお世話をすること」と、一言では片付けられないほど多岐に渡ります。生活習慣のお世話や指導、遊びを介した教育、健康状態や精神状態のチェック・ケアなど、子どもを相手にする仕事だけでもたくさんあります。
他にも、保育計画の立案や、配布物の制作、壁面装飾の製作、行事の準備や実行、研修への参加、保護者対応など、本当に仕事が幅広いことがわかります。それに比例して覚えなければならないことも多く、仕事の大変さを感じてしまいます。
残業が多い
仕事量が多い=残業が多いということでもあります。日中は子どもたちから目を離せず、事務作業や製作の仕事はほとんどできないのが実情のようです。そのため、園児を見送ってから取り掛かることになり、必然的に残業になるという流れができてしまいます。個人の工夫では解決できない上、園長がそれを「仕方ない」と考えていると、改善は難しいでしょう。終わりの見えない残業の日々に保育士さんは辛いと感じざるを得ないと言えます。
また、自宅に持ち帰って取り組む事務作業や製作系の仕事は、持ち帰り残業のため残業代が出ません。仕事量の多さだけではなく、その分の残業代が支給されないことについても保育士さんが辛いと感じるところではないでしょうか。
休みが少ない
長時間労働に加え、土日出勤があり、休みが少ないと感じている保育士さんも少なくありません。近年では働き方やライフスタイルの多様化などにより、土日勤務の保護者が増えてきています。そのため、土日でも開園している保育園の需要は高まっており、保育士さんが土日に働くことにつながっています。
平日に振替休日を取得できればよいのですが、人手不足により平日の代休取得ができない園もあるようです。保育業界以外で仕事をしている友人の話を聞き、自分の状況と比べると辛いと思ってしまう方も多いでしょう。
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仕事の質についての辛さ
保育士さんが仕事の質について感じる辛さは、どんなものなのでしょうか。
保育がうまくできない
保育がうまくできないということに辛さを感じている保育士さんもいます。子どもたちをうまくまとめられなかったり、懐いてくれなかったり、侮られているような態度を取られてしまったり…。子どもたちのために頑張っているのに、空回りになってしまうのは辛いですよね。他の先生と比べてしまって、思うようにできない自分にいら立ちや虚しさを感じてしまうこともあるようです。
人間関係
退職理由の大部分を占めるほど、人間関係に辛さを感じる保育士さんは多いです。上司や先輩によるパワハラまがいの対応や、職員同士のいざこざ、雰囲気の悪さなど、人間関係にまつわるストレスは他のものに比べてよりエネルギーを消耗してしまいますよね。
また、保護者対応も保育士さんを悩ませる要素の一つです。無理なお願いや、ケガの際の対応などに神経をすり減らすことで、保護者との関わりを辛いと感じることも少なくありません。
責任の大きさ
子どもたちの命や、今後の人生に影響するかもしれない大切な幼児期の時間を預かっていることに、責任の重大さを感じることもあるでしょう。特に子どもがケガをしてしまったときには、止められなかった自分を責めてしまったり、トラウマになってしまう保育士さんもいます。
園や先生との保育観のギャップ
自分の理想とする保育と、園や他の先生がする保育に生じるズレに辛さを覚える保育士さんもいます。例えば、同じクラスの担当として組んでいる先生との保育観が異なる場合、その先生に合わせることも、自分に合わせてもらうことも難しく、また子どもたちを困惑させてしまうことにもストレスを感じる要因になります。
その他の辛さ
その他にも、勤務時間が長くて転職の準備をする時間がない、辞めたいけれど人手不足で辞められない、今の園を辞めたいけれどキャリアが浅いなどの不安や悩みを抱えている保育士さんもいるようです。多くの保育士さんが抱える悩みから、個人的に抱える悩みまで、少しでも改善していきたいですね。
「辛い」悩みの改善方法は?
個人では変えられないこと
仕事の多さや、休みの少なさについては、なかなか個人の裁量では変えられません。では、どのように改善したらよいのでしょうか。
相談する
園長や主任に相談して、現状の改善を求めましょう。もし見直しがされれば、不必要な仕事をカットしたり、書類の手書きをPC化することなどで効率化が実現するかもしれません。また、職員同士で話し合う機会を持つことができれば、職員間の仕事の偏りをなくしたり、必要以上に製作物を作ることを減らせるなどの改善策に踏み切ることができる可能性もあります。
転職する
今の職場では解決しようがないと判断した場合、思い切って転職を選びましょう。他の園で保育士を続けたり、保育士経験を活かして多職種での転職をするなどという選択肢もあります。例えば前者の場合で、今の園での残業に耐えられないけれど保育士は続けたいという方は、事務作業にパソコンを積極的に取り入れていたり、持ち帰り残業を禁止している園を探してみましょう。保育士の長時間労働を見直す動きがある近年では、働きやすい職場づくりに注力している園が増えてきています。
また、パートの保育士さんを製作担当として採用することで、事務作業や製作に時間を割くことが難しい保育士さんの負担を軽減している園もあるので、そのような園であれば、より子どもたち一人ひとりをじっくり見ることができそうです。
また、同じ保育業界での事務職や調理員、保育補助などでも、違う職種ながらも子どもたちに関わり続けることはできますし、募集もたくさん出ています。保育士の経験を存分に活かすこともできますし、資格が必要な場合には取得中での応募ができる園もあるので、それを活用することで時間をかけ過ぎずに転職活動を進めることができそうです。
個人で変えられること
うまく保育ができない辛さといったような、自分の仕事に対するふがいなさを解消するための心構えや改善策について考えてみました。
新人ならできなくて当たり前
保育士になったばかりであったり、新しい職場で働き始めたばかりなら、うまく保育ができないのは当然のことです。まだ新しい環境で自分の保育を確立することができていない状態なのは、悪いことばかりではありません。できないことや、苦手なところが具体的にわかるということは改善への大きな一歩です。あとはそこを重点的に取り組んだり、自分の得意なことを混ぜることで克服できるかもしれません。
技術<人間性
「うまくできない」と悩みがちな保育技術や、ピアノの腕前よりも、実際は豊かな人間性の方が保育士にとっては重要です。もちろん高い技術を持つことに越したことはないですが、保育の仕事は教科書には載っていない、予想外な出来事の連続です。技術が足りないことを気にするよりも、自分の得意なことや、自分らしさを活かした保育を行ってみてはいかがでしょうか。勉強してきたこととは少し違ったとしても、自信を持って取り組めることの方が、むしろ子どもたちの興味や笑顔を引き出すことができるかもしれませんね。
保育の引き出しを増やす
例えば折り紙や工作、手遊びのレパートリーを増やすことで、より子どもたちの興味を引き付けたりすることはできるようになるかもしれません。急にできたすき間の時間にすることに困らなくもなりますし、楽しい工作のアイディアをストックしておけば、子どもたちの好奇心や達成感を育てるような成長の役にも立つでしょう。
ただ、子どもがこんな時はどうしよう?泣いてしまったら?もし給食を食べてくれなかったら?こういった日常的な保育の悩みには、実は明確な答えはありません。保育士が10人いればそれだけの正解があるのです。そのため、時には先輩・同僚や、保育士の集まる研修や集いに参加して悩みを打ち明けたり、アドバイスをもらったりして、保育士としての引き出しを増やすのも有効かもしれません。
責任の大きな仕事をしていることに、誇りを持とう
保育士さんの辛さについて、どんなときに辛いと感じているのか、またその改善策について解説しました。保育士側から見ると、子どもを預かり、その子どもたちを育てているということだけが見えるかもしれません。
しかしもっと視野を広げてみると、子どもを預かることで保護者の時間を作り、その時間で保護者が仕事をすることで、経済活動が活発化したり誰かが助けを受けている、という考え方もできます。それだけ保育士は社会に必要で、尊い仕事です。辛いことしか見えないときには、一歩離れて「保育士は誇り高い仕事」だということを思い出してくださいね。