2020年代に突入し、子ども主体の保育やAI時代の到来など、時代の流れに伴い保育の在り方が変わりつつある昨今。一方で、未だ保育士不足は問題視されており、現場に立つ先生方の負担が懸念される現状にあると言えます。
そこで今回は、40年以上の現場経験を持ち、現在、非営利団体コドモノミカタ代表理事を務める井桁容子先生にインタビューを実施。いまの保育に求められることやこれからの保育士の存在意義についてお伺いしました。

「一流の大人を目指す」。井桁先生が保育者を目指したわけ
ー井桁先生が保育士を目指したわけを教えてください。
はじまりは、高校時代の担任の先生が東京家政大学への推薦話を持ち掛けてくれたことでした。
もともと、大人の世界でバリバリ仕事をするようなかっこいい女性に憧れていたので、保育士を目指していたわけではなかったんですね。
ですが、父が高校2年の時に亡くなったこともあり、高校時代の担任の先生が進路についてすごく気にかけてくれて。そのときに東京家政大学への推薦のお話をいただいたんです。
実は中学時代の家庭科の先生に対してあまりいい思い出がなかったので、「家政学」という言葉に反応して、はじめは断っていたのですが、「家政学の奥の深さ」「人間の生活科学」という先生からの説明を聞いて、偏見を捨てようと思ったんです。

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それと、私は父親が大好きでした。その父が仕事の休みの日に、近所の子どもを集めて遊ぶような人だったので、その人の娘であり、自分の尊敬する父親の血を受け継いでいるならば、職業にすることができるかもしれないと考えました。
でも正直なところは、長女ということもあって、小さい子どもの面倒は弟で十分だと思っていましたけれど(笑)
そして、ある日高校の授業をサボって、一人で友達のお姉さんが務める幼稚園を一日中見学させてもらったんです。
その時、保育者には目が全くいかず、「 子どもって面白い!」と思ったんです。先生の話を聞かずによそ見をしている子、お友だちと好き勝手している子と色々で面白いなと。
それで、保育者になるということよりは、子どもに関わる何かができたら、私の興味が長く続くかもしれないと考えるようになったんです。

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そのようなわけで、もともと人と競争することが嫌いなこともあって、誰とも競わずに入れる推薦という形で東京家政大学短期大学部に入学しました。
本当は、父の遺言でもあったし、高校の担任も4年制大学に入るように言われていたのですが、父が亡くなって家計も大変なので短大に入ることを自分で決めました。
そして、実際に勉強してみると、子どもについて学ぶことがすごく面白くて、結構真面目に授業を受けました。
でも、保育実習のときは、施設実習の宿泊実習先で発熱してしまったり、子どもと遊びすぎて、エプロンが破れたり、声が出なくなったりと失敗もたくさんしたのですが、想像したよりも楽しくて、学ぶこともたくさんあって保育者になってもいいかもと思えるようになりました。

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短大卒業後、私が42年間勤務した東京家政大学ナースリールームは、乳幼児の保育をしながら子どもの目線に立って保育を研究する機関という施設だったので、「片目は保育者、もう一方は研究者の目で」という姿勢を、1年目から求められました。
そういう意味では、厳しい職場ではありましたが、おかげで研究テーマを持って子どもの育ちにある「何か」を追求する癖が自然に身につくことができたと思っています。
わたしが退職したあとすぐに東京家政大学ナースリールームは、認可保育所(事業所内保育所)になりましたが、研究的なまなざしで子どもの思いに適切に応えることの大事さを追及したり、年間にたくさんの実習生を受け入れ、指導することも求められた経験は、保育者としてのあるべき姿勢を磨くことができたり、経験主義に陥らないで済む場所だったと感謝の気持ちでいっぱいです。
もともと保育者になろうと思っていたわけではなかったのですが、どんな職業に就いても、必ず ”一流を目指す”というこころざしは持っていたので、保育者になるからには、子どもたちの気持ちを代弁できる保育者になると決めていました。
それは、私が子ども時代に、子どものことを決めつけたり分かろうとしなかったり、嘘をついたりする大人と出会い、傷ついたりしてとても残念に思っていたからです。せめて自分だけでも、子どもに誠実な大人であろうと思っていましたね。
親”代わり”から保育を「必要」とする時代に

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ー時代とともに変化するなかで、これからの保育に求められること、変えていくべきことはどんなことですか?
「みんなと同じことができるようにする」という感覚については変わっていく必要があると思います。
実際、社会状況を見ても近年は、みんなが持っているものというより、珍しいもの、個性があるものが求められていると感じます。つまり、その人にしかない特性に磨きをかけていく時代だということです。
そのためには、これからの保育は、保育所保育指針等にも示されているとおり、一人ひとりの置かれている状況や特性にあわせて、柔軟に対応していくことが求められると言えるでしょう。
それに、保育者の専門性としてとても大事なことでもあります。
なぜなら、指示通りにできることを保育の目標にしても意味がないし、 指示通りにすることはAIにはかなわないからです。
それよりも、”その人らしさ”、”その人しかないもの”を活かして、しなやかな心で、ひとと関わりながら生きていける応援を保育や教育でしていく時代といえますね。
そのために保育者は、子ども一人ひとりの目に見えない思いにていねいに目と心を向けて応えていくということが大事になります。

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ーこれまで以上に、子ども一人ひとりとていねいに向き合うことがとても大切になるのですね。そんななかで、井桁先生は保育士の存在意義についてどのように考えていますか?
保育者は親とは違う存在であるということです。
以前は、さまざまな事情により「保育に欠ける子ども」を対象に保育をしてきたけれど、今は「保育を必要とする子ども」が対象になりました。つまり、家庭の代わりというような消極的な意味ではなく、積極的に家庭では経験できないことの経験の保障として保育を取り入れる時代に変わったということです。
本来、お母さんやお父さんだけでは人間の子どもは育たないといわれています。さまざまな人との関わりが、心の成長には重要だからです。
そういう意味では、多様なかかわりができる保育園、幼稚園、認定こども園という場所で、親にはできない関わりや気づき、文化、さまざまな経験を子どもに提供できるのが保育者という存在なんです。
家庭のよさもあるけれど、園では友達とのかかわりや、さまざまな素材や環境が用意されているなど、”家庭にはない経験ができる“場となります。
養成校の授業で、学生さんに「保育者とはどんな人だと思いますか?」と尋ねたときに、「子どものダメなところを直す人」とか「子どもに善悪を教える人」と回答する学生さんが結構いて驚かされました。
保育者は、本来は子ども一人ひとりの その子らしさを大切にして、自信をもって生きていくための応援をする人なんです。
そのために保育者は、学んで資格を取っているからこその”専門性”を持っています。子ども理解に対して根拠を持っているはずなんです。ですから、そのことに誇りを持ち、単なる親の代わりではないということを心にとどめていてほしいですね。

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ー保育園という場所で、保育士さんだからこそできるということですね。
そうですね。そして、そういう意識を持つ人こそが保育士として、今、求められる役割を果たすことができると思います。
親が感情で接してしまうところを、わたしたち保育者は専門家として子どもに共感したり根拠を持ってかかわったりできるから、困っている子どもたちを救えるんです。
だからこそ、保育者は子どもへの接し方や関わりをていねいにしてほしいと思いますね。
【前編・終】
前編では井桁先生が保育士になるまでのお話と、これからの保育者に求められることについて伺いました。
次回、後編においては就職・転職時の保育園選びのポイントや、井桁先生がいち保育士として体験された心温まるエピソードをお送りします。
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井桁容子先生プロフィール
井桁容子(いげたようこ)先生。福島県いわき市出身。1976年4月に東京家政大学短期大学部に入学し、2018年3月までの42年間、東京家政大学ナースリールームに勤務。
2018年4月~現在、非営利団体コドモノミカタ代表理事を務める。保育者研修や大学等での特別講師など、講師・講演のほか、「保育でつむぐ子どもと親のいい関係」「0・1・2歳児のココロを読みとく 保育のまなざし」などの著者としても活動。さらに、Eテレ「すくすく子育て」や「ホンマでっかTV」「ノンストップ」等のコメンテーターとしても活躍中。
<取材・執筆> 保育士バンク!編集部
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