前回は、保育者の心理面で重要な専門性「待つこと」、その大切さについてお話ししました。それを読んでいかがでしたか。人によっては、当たり前と思っていたことが当たり前ではなかったと気づいた方もいたのではないでしょうか。
泣いている子をあたたかく見守りながらも、それにただ「泣き止ませなければ」と手を貸すのではなく、その子が自分で葛藤という心の経験をし、それを完璧でなくてもいいので少しでも成長の方に前進していく姿を自分で出すことを待つ。ここに子どもを主体的に成長させることができる、保育者の「待つ」専門性があるのでした。
では、どうしたらこの「待つ」専門性を保育の中で出していけるようになるのでしょうか。実は、「待つ」をうしろから支えているものがあります。
子どもを信じるとは?
それが、「子どもを信じる」専門性です。信じるといっても、「保育士は子どもを信じなさい」とか、「子どもに寄り添う」といった精神論や感情論で保育者のあり方を説くものではありません。
このような精神論・感情論で保育者の専門性 が語られてきたこれまでの保育界のあり方は、僕は不適切なことだったと考えています。
子どものムリのない成長のありかた、理解していますか
ここで言う「子どもを信じる」ということの本意はこういうことです。まずは、保育者が子どもの成長発達のあり方や、いろんな多様な子どもがいて、いろんな個性がある、という広い知識や経験を持っていること。
その知恵をベースに、「いまはその姿は出ていなくても、こういった経験をしつつ、また時間的な成長や、周囲の子どもや大人との関わりをしていけば、ムリのない成長のあり方が見えてくる、ということ」をよく分かっている、ということです。
これは案外難しいことです。 というのも、多くの人は、子育てのスタートラインに立ったときに、子どもにさまざまな「できる」を増やしてあげないといけない、というスタンスを持っているからです。保育者もまた例外ではありません。
さらに人によっては、そこに「子どもはできないものだから」という決めつけや、子どもの力を見くびった見方を持っています。
「できる」を増やすことが保育の全てではない
こうしたスタンスになんの疑問も持たないまま、実際の子どもへの関わりが始まってしまうと、その人は「(大人が)介入によって子どもの『できる』を作り出す」関わりを積み重ねていってしまいます。
これが過保護・過干渉の始まりです。その人は必ずしも悪意があってそうしているわけではなく、その人なりに一生懸命だったり、子どもを思ってのことだったり、職業的な誠実さゆえにそれをしてしまいます。
しかし残念なことに、それは無意識ながらに子どもの力を信じられていない状態なのです。
無自覚な保育を招いてしまうもの
これは、「無自覚な保育」をたくさん招きます。例えば、その子はそんなことをしなくても、適切に大人についてこられるにも関わらず、無意識に乱暴に手首を引っ張ってつれて歩いてしまったり、その子をただ待っていればこちらに来られるのに、まるでモノでも抱え上げるように抱き上げて動かしてしまったり。
こういったことが保育の現場では無数に見られます。その保育士たちは、その行為に自分自身気がついていません。つまり、無自覚なのです。
たしかに、保育者自身は悪意なくやっています。しかし、プロである保育士が、無自覚に不適切なこと、無用なことをしているのは、それがたとえ悪意がないからといって許容されるでしょうか。残念ながら、専門性の高い仕事であればそれは許されるものではありません。
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無自覚な保育はなぜおきる?
こういった無自覚な保育が発生してしまうのは、子どもの成長への理解がなく、子どもの成長を信じられることができず、そのため待てずに、結果をてっとり早く作り出してしまう介入、過干渉、過保護、管理、支配の関わりがあるからです。
本来であれば、私たち保育者の仕事は、子どもの見た目の姿・行動を作り出すことではなく、子ども自身が適切な成長を自分で遂げられるよう子どもを伸ばしていくことにあるのです。
保育者が考えるトイレトレーニングの無意味さ
例えば、排泄の自立の場面で考えてみます。一般的に、少なくない人が、おむつは早く外れるほど良いのだと考えています。でも保育者は、子どもの成長面には個人差が大きくあり、「○歳になったら取りましょう」といった紋切り型の考え方が実際には意味のないことだと知っているはずです。
また一般に考えられている、年齢や、排尿の間隔が「○時間空いたら」といった目に見えることだけでなく、排泄が自立するためには、情緒の安定や、自立心などの心の成長といった目に見えない部分も大切だと知っているでしょう。
おむつは大人が外すものではなく成長によって外れるもの
これらを踏まえていれば、いわゆる「おむつ外し」「トイレットトレーニング」といったことに注力することが、そもそもあまり意味のないことであることがわかります。
「おむつは(大人が)外す」のではなく、適切な成長の段階を踏まえて子どもが自立し「外れる」のですよね。「トレーニング」をすれば外れるのではなく、子どもの成長の諸条件が整った前提があってこそ、排泄を意識させるアプローチに意味がでてくるわけですよね。
でも、一般の人のみならず、保育者も、こういった子どもの成長のメカニズムを理解しておらず、その結果子どもの成長を信じることができず、結果ばかりを焦り、それを作り出すアプローチを保育だと認識してしまっています。
だからこそ、「子どもを信じる」ことが保育の専門性になるのです。子どもを信じられるためには、子どもの成長の理解、個別性の理解、また保育者の心理が焦りに支配されないだけの理解や根拠が必要です。
子どもの「できる姿」を無理やり作り出してはいけない
その上で、子どもが自主的に得られた成長こそが、子どもがもっとも伸びるときであり、また子ども自身も、もっとも達成感を感じられる成長となります。大人が無理矢理、子どもの「できる姿」を作り出してしまう力技の保育は、本来その子が食べるべき子どもの成長の果実を保育者がむしり取って食べてしまう状態です。
子どもによりよい成長を遂げさせてあげられるために、なによりも「信じて待つ」ことが保育者にとって大切なのです。
プロフィール
保育士おとーちゃん(須賀義一)
1974年生まれ。大学卒業後、男性としてはまだ珍しかった保育士(当時は保父)資格を取得する。
2009年、保育士としての経験などを元にブログ『保育士おとーちゃんの子育て日記』を開設。
現代の子育てに合った具体的な関わり方を伝えつつ、多くの人からの子育ての悩み相談にも応える。
著書に『保育士おとーちゃんの「叱らなくていい子育て」』『保育士おとーちゃんの「心がラクになる子育て」』(ともにPHP研究所)など。
東京都江戸川区出身、墨田区在住。一男一女の父親。