先日、新聞の投書欄をきっかけに、ある保育園で「妊娠する順番(育児休暇を取る順番)をあらかじめ園長が決めている」という事例が話題になりました。これはもちろんマタハラ(マタニティハラスメント)にほかなりません。
大変残念なことに、実際に、現役保育士の方のお話を聴いていると、こうしたハラスメントの話を山のように耳にします。
そこで、今回はこうした保育施設での職員内のハラスメントについて、僕の考えを書いていきたいと思います。
あなたの職場(保育園)で、こんなハラスメントはありませんか?
ハラスメントには、パワハラ(パワーハラスメント)、モラハラ(モラルハラスメント)、セクハラ(セクシャルハラスメント)、マタハラ、そしてパワハラの一種ではありますが、特に退職するにあたって嫌がらせや個人攻撃をしてくる「退職ハラスメント」もあります。
保育施設における具体的なパワハラ、モラハラの事例としては、
・過剰に早く出勤させられたり、残業を強要される
・用事で残業をせずに帰ろうとすると嫌みを言われたり、「やる気がない」と責められる
・園長の私的な用事をさせられる
・職員同士の交流を非難される
・有給休暇を取らせない。またその取得に関して理由を執拗に聞かれる
・有給を取る際は「いくら以上」の菓子折を持ってくることが暗黙のルールになっている
・プライベートなことまで立ち入ってくる
・性格的、身体的なことまであげつらって否定される
・服装や持ち物にまで否定的なことを言われる
・過剰な仕事量を要求される
・些細なミスを執拗にあげつらう
・「こんな常識もないなんて親の顔が見てみたい」などの理不尽な個人攻撃
・子どもや他の職員の前で叱責される
・無視される
・他の職員と差別される
特に今回話題になったマタハラとしては、こんな事例もあります。
・無視や嫌みなどの精神的な攻撃
・妊娠すると退職を強要される
・先輩を差し置いて妊娠してはならないという暗黙のルールがあるなど
冒頭の例のほか、妊娠出産に関して嫌みを言われたり、そもそも妊娠することを許容しないといった人権問題としておかしなことまであります。
辞められないように仕向ける「退職ハラスメント」
また、こうしたハラスメントが横行している施設であれば、当然辞職する人がでてきます。
しかし、その退職に関しても、さらなる嫌がらせまであります。
例えば、退職の意思表示をした職員が、こんな心無い言葉を言われる、といったケース。
・「子どもたちを捨てて辞めてしまうなんてあなたは愛情がない。ひどい保育士だ」
・「ここでの仕事が勤まらないのなら他に再就職など見つかりっこない」
・「市内の保育施設は全部知り合いだから、辞めようものならこの市で保育士ができると思うな」
また、スムーズな退職を妨げるような、次のような行為も残念ながら耳にします。
・退職願の受け取りをいつまでも拒否する
・必要な書類を出し渋る
・職員会議でつるし上げられ弁明や謝罪を強要される
このような職場をなんとか辞めることができても、その後、心の病にまで発展してしまい、心を回復させるまで安定して生活することができなくなってしまうといったケースもあります。
簡単1分登録!転職相談
転職に関するご質問や情報収集だけでもかまいません。
まずはお気軽にご相談ください!
読んでおきたいおすすめ記事
保育士をサポート・支える仕事特集!異業種への転職も含めた多様な選択肢
保育士の経験を経て、これからは保育士のサポート役として働きたいという方はいませんか?責任の重い仕事だからこそ、人の優しさや支えが必要不可欠な仕事かもしれませんね。今回は、保育士さんをサポートする・支え...
在宅ワークで保育士資格を活かせる仕事とは?自宅でできる保育関係の仕事を徹底解説
通勤時間なく働ける在宅ワークをしたいと考えても「保育士は無理なんじゃないか……」とあきらめている方はいませんか?保育園の事務職や保育ママ、保育園業務のサポートなど、保育士の経験や資格を活かして自宅でで...
病院内保育とは。役割や仕事内容、病院内保育士として働くメリット
病院内保育とは、病院や医療施設の中、または隣接する場所に設置されている保育園のことです。保育園の形態のひとつであり、省略して院内保育と呼ばれることもあります。転職を考えている保育士さんの中には、病院内...
子ども・赤ちゃんと関わる仕事31選!資格の有無や保育士以外の仕事を関わる子どもの年齢別に紹介
子どもと関わる仕事というと主に保育園や幼稚園を思い浮かべますが、それ以外にも意外とたくさんあります!今回は赤ちゃんや子どもと関わる仕事31選を紹介!無資格で活躍できる職場もまとめました。子どもと携わる...
保育士を辞める!次の仕事は?キャリアを活かせるおすすめ転職先7選!転職事例も紹介
保育士を辞めたあとに次の仕事を探している方に向けて、資格や経験を活かせる仕事を紹介します。ベビーシッターなど子どもと関わる仕事はもちろん、一般企業での事務職や保育園運営会社での本社勤務といった道も選べ...
保育士から転職したい!転職先としておすすめの異業種22選。保育士以外の仕事やメリット・デメリットも
保育士以外から異業種への転職を考えている際、どのような転職先がおすすめなのでしょうか。今回は、次の仕事として保育士から転職しやすいおすすめの異業種22選を紹介します。保育士から異業種に転職するメリット...
保育園運営会社の仕事内容とは?本社勤務でも保育士資格は必要?働くメリットや求人事情まで
保育園運営会社にはどんな仕事があるのでしょうか?保育園運営会社で働くことは「本社勤務」とも呼ばれ、保育園の運営に携わる仕事として、主に一般企業に就職したい保育士さんにとって人気の高い職種のようです。今...
【2024年最新】保育士に人気の転職先ランキング!異業種や選ばれる職場を一挙公開
保育士の資格を活かして働ける人気の転職先をランキング形式で紹介!企業主導型保育園や病院内保育所、ベビーシッターなど保育士経験やスキルを活かせる職場はたくさんあります!今回は保育施設や異業種別に詳しく紹...
【完全版】保育士資格を活かせる仕事・働ける企業25選!
保育園で保育士として働くのが辛いと感じて、転職を考えているという方がいるかもしれません。しかし、せっかく取得した保育士資格を活かして働きたいですよね!保育士として得たスキルや経験は一般企業や福祉施設、...
【2024年最新版】幼稚園教諭免許は更新が必要?廃止の手続きや期限、対象者をわかりやすく解説
幼稚園教諭免許は更新が必要なのか、費用や手続き方法などを知りたい方もいるでしょう。今回は、2022年7月1日より廃止された教員免許更新制について詳しく、そしてわかりやすく紹介します。幼稚園教諭免許を更...
保育士は年度途中に退職してもいいの?理由の伝え方や挨拶例、再就職への影響
「年度途中で退職したい...けれど勇気が出ない」と悩む保育士さんはいませんか。クラス担任だったり、人手不足だったりすると、退職していいのか躊躇してしまうこともありますよね。そもそも年度途中で辞めるのは...
幼稚園教諭からの転職先特集!資格を活かせる魅力的な仕事18選
仕事量の多さや継続して働くことへの不安などを抱え、幼稚園教諭としての働き方を見直す方はいませんか。幼稚園教諭の転職を検討中の方に向けて、経験やスキルを活かせる18の職場を紹介します。保育系の仕事から一...
【2024年度】放課後児童支援員の給料はいくら?年代別の年収やこの先給与は上がるのかを解説
放課後児童クラブや児童館などで働く「放課後児童支援員」の平均給料はいくらなのでしょうか。別名「学童支援員」とも呼ばれ、「給与が低い」というイメージがあるようですが、国からの処遇改善制度などにより、これ...
保育士が働ける保育士以外の仕事21選。資格や経験を活かせるおすすめの就職先
保育園以外の職場に転職・就職先を探す保育士さんもいるでしょう。今回は企業内保育所や託児施設、児童福祉施設など、保育士さんが働ける保育園以外の職場を21施設紹介!自身の働き方や保育観を見つめ直し、勤務先...
- 同じカテゴリの記事一覧へ
「理不尽なこと」という感覚が麻痺してしまう、ハラスメントの怖さ
このようなハラスメントは、そのほとんどがとても理不尽なもの。第三者として見たり、話を聴く分には、そのようなことにはまともに取り合わずに、そうした職場と距離を置いたり、離れればよいのではないか、と感じることもあるかもしれません。
しかし、こうした辛い環境に日々職場でさらされ続ける当人にとっては、それらが理不尽なことであるといった感覚までが麻痺してしまうのです。
さらに、「あなたは保育士に向いていない」といったことを周囲から言われていると、それがハラスメントであることに気づかず、本当に「自分は保育士に向いていないのだ」と自分でも思い込むようになってしまいかねません。
ターゲットになりやすいのは「逆らわない、優しい人」
そもそも保育士を志す人の中には、気持ちが優しく他者と対立を好まないといった人も多いです。
ハラスメントをする人からすると、そういった人たちは格好の餌食になります。
ハラスメントをする人は、ハラスメントをされても逆らわない人を無意識に判断してそれを行ってきます。
そういった人たちにとって、保育施設という閉じた職場はまたとない場所なのです。
閉じた社会ゆえに、一般社会の常識が通用しない怖さがある
冒頭のマタニティハラスメントの実例では、その施設内の既婚者は年齢順で妊娠することを求められ、それに反すると園長から激しく叱責されるというものでした。
当たり前ですが、どんなタイミングで妊娠して子どもを持とうが、個人の自由です。
いくらその影響によって保育士が不足するといっても、当事者が責められるべきものではまったくありません。これが大前提です。
でも、今回のケースの職員は、こうした「妊娠順番制」に違和感を感じず、従っていたと言います。
その職場では、それが当たり前になり、それをおかしいと感じることすらなくなっており、ましてやそういった理不尽な慣習をやめようという声すら上がらなくなっていたのでしょう。
中には声をあげた職員がいたとしても、逆に周りの職員がそれをたしなめたり、「あなたは自分勝手だ」と非難したりといったケースも存在します。
保育施設は一つひとつが小さな組織であり、また外部の意見や、一般常識から閉じたあり方でも成立し得てしまうので、ときに時代感覚から取り残された慣習や、通常の社会ではありえないルールなどが大手を振ってまかり通っていることがあります。
ハラスメント体質は、なかなか変わりにくい
実際に、多くのハラスメントの実例に関わってきた立場からすると、ハラスメント体質を強く持ってしまった組織が自浄作用を発揮し、健全な方向に変わっていく、といったことはまれです。
また、組織ではなく個人がハラッサー(ハラスメントの発信者)である場合も、その人が考え方をあらためて自身のしていたハラスメントを反省し、それをしなくなるということもまずほとんどありません。
一職員がハラッサーで上司や組織が、その職員の問題を認識し対応を意識している場合は、ある程度そういった行為を押さえることは不可能ではないにしても、押さえても結局は別のところで出すようになることも多いでしょう。
被害者が受ける、二次的なハラスメントも問題だ
被害者が組織に問題を訴えても、「あなたが不満を言わなければ丸く収まる」「(ハラスメントをしている)園長も、それはそれで頑張っている」と言われるケースも少なからず耳にします。組織側に問題を「なかったこと」にするよう要求されてしまうのです。
これは被害に遭っている側を責めるという、組織による「二次的なハラスメント」と言えますね。これも、組織に自浄作用がない悪質なケースです。
自浄作用がない現場を改善していくのは厳しい
さらに、上司や組織がハラスメント体質を持っている場合、これはもう改善の余地はありません。
そうした現場で働く上では、まずは身を守ることです。
例えばハラスメントされたことを記録につけたり、音声を録音する、労基署に相談するなどがあります。
他に、内部告発などで組織自体の改善を目指す、という手段もありますが、当事者としてハラスメントを受けつつも、改善のために動くというのは、精神的にもとてもパワーがいるもので、多くの保育者にとってはあまり現実的ではないでしょう。
より適切な職場を求めて、まだ被害の少ない内に転職を考えるのが現実的な対策ではないでしょうか。
身を守るための転職は「逃げ」ではない
保育士の転職については、前述したように、子どもの存在を盾にとって「目の前の子どもたちを捨てて転職するのは『逃げ』だ」とか、「ここで勤まらないのなら、他でも保育士は勤まらない」といったような脅しめいたことを言ってくる現場もあります。
でも、厳しすぎる現状から身を守るための転職は、けして「逃げ」ではないのです。
目の前の子どもたちを最後まで送り出せずに現場を離れることに、抵抗がある方もいらっしゃると思います。
しかし、身体や心を病んでしまったり、「保育」の仕事自体に絶望してしまう前に、僕は、まず保育者ご自身のことを大切に考えてほしいと思っています。
なんといっても保育者の心と身体が健康でなければ、良質な保育は実現できないのですから。
保育の現場だからこそのハラスメントとは?
他に重要なこととして、僕は「保育の現場だからこそのハラスメント」があると思っています。
例えば、「私自身はそうすることはよくないと思っていたが、給食をどうしてもぜんぶ食べられない子に、園や先輩の方針で、無理やり食べさせるよう強要させられた」といったようなケースです。
これは、子どもへ不適切な保育や、子どもを傷つけたり自尊心を踏みにじる行為を、上司、同僚から求められたり、その方向で指導されたり、自身はそれをせずとも眼前でそれら子どもへの不適切な行為を展開されるなど、「保育上のハラスメント」とでもいえるものです。
職員へのハラスメントと、この保育ハラスメントの両方が行われていることも多いです。
実は、保育の仕事とハラスメントには、残念なことに切っても切れない関連があります。
実際に、ここへの無自覚さが多くの保育施設において、保育の専門性の向上を阻害しているとすら言えるでしょう。次回はそれについて考えてみたいと思います。
プロフィール
保育士おとーちゃん(須賀義一)
1974年生まれ。大学卒業後、男性としてはまだ珍しかった保育士(当時は保父)資格を取得する。
2009年、保育士としての経験などを元にブログ『保育士おとーちゃんの子育て日記』を開設。
現代の子育てに合った具体的な関わり方を伝えつつ、多くの人からの子育ての悩み相談にも応える。
著書に『保育士おとーちゃんの「叱らなくていい子育て」』『保育士おとーちゃんの「心がラクになる子育て」』(ともにPHP研究所)など。
東京都江戸川区出身、墨田区在住。一男一女の父親。