「子どもの人権」について考えたことはありますか?子どもたちと接する中でまずは人権とはどのようなものなのか、考えてみることが大切です。子どもといっしょに過ごす中で大切な要素の一つになるかもしれません。今回は子どもの人権をテーマに対応例や問題点などを解説します。保育への理解を深めるために参考にしてみてくださいね。
食事のとき、苦手なモノを食べさせるのに、デザートで釣ったりするのはいいのかな?
寝ない子に「鬼がくるよ」と脅して言うことを聞かせてもいい?
ごねる子に、「そんな子は赤ちゃんです。赤ちゃん組にいきなさい」と言っていませんか?
今回のテーマは、こうした保育を考える上で大切になる「子供の人権」。みなさんも耳にしたことがある言葉だと思います。
保育所保育指針などでも言及されていますね。
それが大切なことや、それを踏まえて保育をしなければならないということは知っていても、今ひとつ具体的にはつかみづらいのではないでしょうか?
そこで、この「子供の人権」を実際の保育の中で、どうとらえていけばいいのかを考えていきます。これを理解し、実践の中で活かしていくことは、保育の大きなステップアップにつながります。
子供の人権は「社会的」と「生活的」の二つのレベルに分けて考えよう
「子供の人権」と聞くと、『児童の権利宣言』や『子どもの権利条約』などを思い起こす方もいることでしょう。
これらの文章で述べられている「子供の人権」の視点も大切なことです。
ただ、日常の保育の中での「子供の人権」を考える時には、こうした考え方と、日常の保育の間には、つながりが見えにくいところがあります。
そこで、僕は、保育実践の中での「子供の人権」を理解するには、便宜的に2つのレベルに分けて考えると分かりやすいと思っています。
ひとつは、『子どもの権利条約』など社会的レベルでの「子供の人権」。
もうひとつは、日常で一人ひとりの子供と関わるなかで直面する、生活レベルでの「子供の人権」です。
社会的レベルでの「子供の人権」の視点も、子供に関わる仕事をしている以上、普段から意識し常に考えていくことは大切です。
例えば、世界的にみれば児童労働や人身売買、兵士にされる子供、戦争や貧困、飢餓や難民問題。日本国内でも、子供の貧困や教育格差、虐待や体罰、いじめの問題など保育士が関わることは少なくありません。
こうした視点についても、保育士は普段からアンテナを高くしておきましょう。
そうでないと、目の前にその問題があっても、気づかずにそれを見過ごしてしまいます。
さて、では次から、保育士が日々直面するであろう、生活レベルでの子供の人権について考えていきます。
日常保育の中での「子供の人権」とは?
例えば、みなさん子供のおむつ替えをするときどうしていますか?
乳児の保育をしていたら、おむつを替える場面は一日の中で何度となくありますよね。子供の人権への配慮は、こんな普段の生活の中にあります。
実際のケースで考えてみます。
おむつ替えのケースで考える
1歳児が机上でペグ差しをして遊んでいました。
保育士がおもむろにおしりに手を伸ばして、おむつが溜まっていないか確認します。
「あら、いっぱい出ているじゃないの。何で言わないの。ほら、おむつ取り替えに行くわよっ」
子供が、なにも応えないのにそそくさとイスから抱え上げておむつ替えに連れて行きました。
僕からみると、この対応は子供の人権に配慮しているとは言えません。
それは、どの点でしょうか?
言葉のかけ方は、なんだか荒っぽくて雑ですよね。
しかし、そこではありません。
言葉かけの丁寧さも大事だけど…
一般的には、
人権を尊重すること=丁寧にすること
と考えがちですが、もしもこのときの言葉を丁寧に言ったとしても、それが人権を損なう関わりであれば、それは変わりません。
この点、大変誤解しやすいポイントなので頭に置いておいて下さい。
ただし、もちろん乱暴で邪険な言葉遣いは、子供からすると拒否的、非許容的に聞こえるので丁寧な言葉遣いをすることが大事なのは言うまでもありませんね。
さて、それではどんな点が子供の人権を損なっているのでしょうか?
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黙っておむつをさわる=子供を人間として見ていない対応の問題点
まずひとつは、黙っておむつを触っていることです。
仮に、もしあなたがケガや病気で入院していたり、将来歳を取り身体の自由がきかなくなってきて介護されているといった場面を考えてみて下さい。
このとき、介護者がいきなり身体に触ってきたりしたらどうでしょう?
それが、おむつや衣服を替えるためといった理由があったとしても、不快であったり、失礼なことですよね。
ですので、一般的に介護の場面であってもそのようにはしません。
介護者は、必要なことをする前にその人に伝えたり、承認を得るプロセスを踏みます。
「◯◯さん、これから衣服を替えますからね。失礼しますよ」
そこで例えば、このように対応します。
人が人に対応するとき、それがプライバシー、プライベートなところに介入する場合、そのようにその人の尊厳を損なわないように関わります。
これは当たり前のことですね。
大人対大人で考えたら、多くの人が、さしてなにも考えずともそれができます。
しかし、これが子供相手になると、とたんにできなくなってしまう人が多いのです。ここにこそ、生活レベルでの子供の人権の難しさがあります。
それは無意識にかもしれませんが、子供をひとりの人間として見ていないからです。
子供を大人と同じ人権を持っていないものとみなしてしまうから、大人にするよりも低い扱いをしてしまうのです。
子供の人権に留意して対応した例
上のオムツ交換のケース。もし、子供の人権に留意して対応をするとしたら、例えばこんな風に。
・◯◯ちゃん、おむつどうですか?(顔を見る)
・反応がある or ない
・反応があって、その子がおむつ替えに行く意思を見せるならば一緒に行く
・反応がないのならば、そこから「じゃあちょっと見せてね」とおむつに手を伸ばして確かめる
・「ああ、いっぱい出てたね。これだと気持ち悪くなっちゃうから替えにいこうか」と声をかける
例えばのやり方ですがこのようになると思います。
子供と意思を疎通しないでいきなり抱きかかえる問題点
さて、冒頭のおむつ替えのケースで、もうひとつ気になるのが
「なにも応えないのに、そそくさとイスから抱え上げておむつ替えに連れて行った」
この部分です。
このシーンは、子供をまるでモノででもあるかのように扱っています。
この対応は、大人にとって最もラクで効率がよいのです。
しかし、子供の人権に配慮するならば、子供をモノ扱いすることは、してはいけないことです。
子供が遊びに集中していて、大人の声が届いていなかったり、単純にいまいきたくないと思っていたりすることもあるでしょう。
これを、子供が完全に同意するまで待たなければいけないということもありませんが、少なくとも「お断り」を入れる必要があるでしょう。
(なぜ、子供が完全に同意するまで待たなくてもいいかについては、「子供の尊重」という観点が関わってきます。これの詳細は別の機会に譲ります)
子供の人権に配慮した「お断り」の例
・「おむついっぱいだから、取り替えに行きましょう」(顔を見る)
・反応がある or ない
・反応があって、その子が自分でそこまでいける子である場合。一緒にいく。もしくは、その場に先に行って待つ
・反応がない場合。「はい、いきますよ」(顔を見て伝える)その上で抱き上げて一緒に行く
この抱き上げるとき、背中側から抱え上げることはしません。
なぜなら、それだとまったく意思の疎通ができないからです。
それは、子供をひとりの人間であるよりも、モノ扱いする行為になります。
子供がおむつ替えにいくとき、それを嫌だと思ってもいいのです。(だからといって、大人が子供のいいなりにならなければならないということではない)
そうであっても保育者は、その子供の意思の発露を受け止める必要があります。もし、そのとき後ろ側から子供を抱え上げていたら、最初からその意思を受け止めることを大人は拒否しているわけです。
なんらかの必要性がないかぎり、子供を抱き上げるときは前から意思を疎通し合ってというのは、子供の人権に配慮する上で基本的なことになるでしょう。
子供の人権には正解はない 考え続けていこう
今回の例は、生活の上での子供の人権を考える際のほんの一例にすぎません。
いろんな場面で、この視点を持つことで子供への関わりを考えるきっかけになることでしょう。
こうしたケースを、冒頭にあげた例など、ご自身の保育で出会う場面でいろいろと考えてみて下さい。
子供の人権を尊重していくためには、「こうだからこれはしていい、これはしちゃだめ」と理解するのではなく、常に考え続ける姿勢を持つことがとても大切です。
プロフィール
保育士おとーちゃん(須賀義一)
1974年生まれ。大学卒業後、男性としてはまだ珍しかった保育士(当時は保父)資格を取得する。
2009年、保育士としての経験などを元にブログ『保育士おとーちゃんの子育て日記』を開設。
現代の子育てに合った具体的な関わり方を伝えつつ、多くの人からの子育ての悩み相談にも応える。
著書に『保育士おとーちゃんの「叱らなくていい子育て」』『保育士おとーちゃんの「心がラクになる子育て」』(ともにPHP研究所)など。
東京都江戸川区出身、墨田区在住。一男一女の父親。