今回は、保育現場の中で未だにまかり通っている、この困った言葉。
(子どもに)「なめられない保育」について書きたいと思います。
前回、「信頼関係」を築くことで子どもは自主的な成長の姿を見せるようになる。だから、保育者が否定のアプローチを使って、子どもの「正しい姿」を作り出すのはやめようというお話をしました。また、そのことが「待てる」「子どもを信じる」という専門性でもあるわけでした。
「信頼関係」という言葉は、保育に限らず一般的にも使われ、それはほぼ100%いいものとして考えられていますね。
保育者にしても、「信頼関係が大事」ということはどの人に聴いてもそういうでしょう。
しかし、その人の言っていることや理念が、必ずしもその人、もしくはその施設の実際の保育と一致しないということが、保育においては往々にしてあります。
「なめられない保育」という言葉を耳にしませんか
今でも保育士に話を聴いていると、「園の先輩や同僚・施設長に”あなた子どもになめられているからダメなのよ。もっとなめられないようにしなさい”と言われます」といったことをよく耳にします。
僕はいまだに保育実践のなかで「なめられるな」という理屈がまかり通っていることに暗澹たる思いを感じます。
大変残念なことに、「なめられるな」を子どもとの関わりの中で必要だと思っている人たちは、適切な保育を身につけることができなかったかわいそうな人たちです。
「なめられるな」というスタンスで子どもとの関係を作ろうとするのは、もうその時点ですでに「保育」ではなくなっています。
そこには専門性のかけらもありません。
もし、一般の人を連れてきて、多数の子どもを長時間見ることを要求したら、その内の多くの人が「なめられるな」というスタンスで子どもに関わる所に行き着くのではないでしょうか。
それは「保育」ではなく「子守り」でしかありません。
『保育所保育指針』は保育の基本的な方向性を定めたものですが、そのなかにたとえ一ヶ所でも「なめられるな」やそれに類することを述べている所はあるでしょうか?
そんな言葉や表現はどこにもありません。
「なめられない保育」は威圧の保育
「子どもになめられるな」というのは、「信頼関係」の対極にあるものです。
それは「威圧の関係」です。
子どもを常に威圧をすることで、大人に逆らえないようにして結果的に大人の思い通りに動かすことを目指すものです。
これが嵩じれば、疎外や体罰を使う所に行き着く人もおります。
きっぱりと断言できます。
「なめられるな」は保育ではないのです。
「なめられるな」の保育で、自己満足になっていませんか?
しかし、いまだにたくさんの施設や保育士の中では、この「なめられるな」が保育の方法論としてまかり通っている現実があります。
現に、「なめられるな」のスタンスで「私の保育はうまくできている!」という人もいることでしょう。しかし、それはその人の目に映るものだけで自己満足をしているにすぎません。
僕は「なめられるな」で保育を身につけてしまった人を責めようとは思いません。
でも、どうか子どもやなによりもご自身のために、「なめられるな」ではない適切な保育をこれから学んで欲しいと心から願います。
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威圧の保育が子どもにもたらすもの
では、「なめられるな」の保育で一日を過ごした子どもはどうなっているでしょう?
一日のそれもかなり長い時間を子どもたちは、そこの保育者たちからの「威圧」の中で過ごします。
そこで威圧された負荷をたっぷりと心の中に溜め込むことになります。
ある子は家庭に帰ってから親にその負荷をダダやゴネ、ぐずりなどとして出すことになります。
つまり、保育者が自信満々で「なめられるな」の保育で万事うまくいっていると感じられているとしたら、それは親がその尻ぬぐいをすることで成立しているわけです。
保育の不適切さゆえに子どもがそのような姿になっているということに、親はあまり気づけませんので、その親は「私が仕事のために子どもを預けているから子どもはこんなにぐずるのだ。私はダメな親だ」というように自分を責めてしまったり、「子どもとはなんと手がかかって大変なものなのだろう。できることならば子どもとは離れていたい」という心情にしてしまいかねません。
このことは本来子育ての助けとなるべき保育士が、子育てから得られる幸福感を親から奪う結果としてしまっています。
威圧の保育は子どもを不安定な状態にしてしまう
また子どもは、帰ってから親に出すほかに、園の中でだれか頼れそうな人にその威圧された負荷を出すこともあります。
つまり、「威圧」をあまりしてこない人に吐き出すわけです。
これは、新人保育士や、優しい保育士、パート保育士などにぐずりやゴネ、わがまま、甘え、要求として出していきます。
しかし、その人たちが受けても受けても、子どもたちの姿は安定したものとはほど遠い状態のままです。
「なめられるな」で子どもとの関係を捉えている保育士からは、その人が「なめられている」「甘い」と見えてしまいます。
しかし、子どもたちをその状態、つまり優しい人に依存した状態に追い込んでしまっているのは、子どもの生活空間を「威圧」により苦しいものにしてしまっているところに根本の原因があります。
「なめられない保育」では、子どもと本当の信頼関係は作れない
「なめられるな」で保育をしている人には、子どもたちはぐずりやゴネをさほど出しません。それを出さないのはその人の保育がうまくいっているからではなくて、その人は自分のことを受け止めてくれないと子どもたちが学習してしまった結果に過ぎません。
そういう威圧的な保育者から見ると「私の保育はうまくいっている」と見えていても、本当のところは、「あなたは信頼に値しない」と子どもたちに思われている状態である、ということです。
威圧で保育を組み立てていくと、最大限うまくいったところで自己満足にしかなりませんし、多くの場合、保育の仕事をつまらないものとしてしまうことでしょう。
ですから、「なめられるな」の保育におちいらないことを、僕は保育士のみなさんにお伝えしたいと思います。
次回へ続きます。
プロフィール
保育士おとーちゃん(須賀義一)
1974年生まれ。大学卒業後、男性としてはまだ珍しかった保育士(当時は保父)資格を取得する。
2009年、保育士としての経験などを元にブログ『保育士おとーちゃんの子育て日記』を開設。
現代の子育てに合った具体的な関わり方を伝えつつ、多くの人からの子育ての悩み相談にも応える。
著書に『保育士おとーちゃんの「叱らなくていい子育て」』『保育士おとーちゃんの「心がラクになる子育て」』(ともにPHP研究所)など。
東京都江戸川区出身、墨田区在住。一男一女の父親。