⼦どもたちが⽣き⽣きと遊び、学び合う保育現場。だけど、じっと座っていられなかったり、なかなか指⽰が伝わらなかったり、⽇々の中で⼩さな困りごとを感じることはありませんか︖
実は、こうした⼀⾒「特別な」⽀援が必要と思われる状況は、発達障がいのある⼦どもだけの問題ではありません。すべての⼦どもに共通する発達の視点を持つことで、⽇々の保育の場⾯に活かせるようになると、⼦どもたちの姿も変わっていきます。
今回は特別コラボとして、モンテッソーリ教育や感覚統合を中⼼にSNSで発信しご活躍されているりっきーさんにお話を伺いながら、現場ですぐに取り⼊れられる『感覚統合』に注⽬した具体的なアプローチを紹介します。普段の保育の中で、⼩さな⼯夫で⼦どもたちの⼤きな成⻑につながるヒントをぜひご覧ください!
プロフィール
りっきー
Instagramフォロワー数︓4.4万⼈
著書︓ 『感覚統合×モンテッソーリの視点で伸びる︕発達が気になる⼩学⽣の学校⽣活&おうち学習ガイド』
その他の活動︓ モンテッソーリ幼児教室での講師業、SNSでの発信、講演会、保育施設環境のコンサルティング業務など多岐にわたる活躍
経歴
2013年 ⻑男が誕⽣。保育⼠の国家資格取得
2017年 ⾃⾝の⼦どもと⾃宅でモンテッソーリ教育と感覚統合の取り組みを開始
2020年 会社員から独⽴してフリーランスとして活動開始
2022年 初書籍『感覚統合の視点で「できた︕」が増える︕発達が気になる⼦のためのおうちモンテッソーリ』/⽇本能率協会マネジメントセンター を上梓。(2025年3月時点3刷)
2024年 『感覚統合×モンテッソーリの視点で伸びる︕発達が気になる⼩学⽣の学校⽣活&おうち学習ガイド』/講談社 を上梓。(2025年3月時点4刷)中1(発達障害の診断あり)と⼩3の⼆⼈の男の⼦を⼦育て中
「発達障がいの⽀援」は特別なものではない︕
「発達障がい⽀援」と聞くと、特定の⼦どもだけに必要な対応だと捉えがちですが、実際はそうではありません。保育の現場では、国が定めた幼稚園教育要領や保育所保育士指針で『⼀歳ではこんなことができる、⼆歳ではこんなことができる』という⼤まかな⽬安が⽰されていますが、実際は100⼈いれば100通りの育ち⽅があり、⼦どもたちは誰しも全員が得意な⾯もあれば苦⼿な⾯も持ち合わせています。
勉強で例えるなら、数学は100点取れても国語は60点というような得意・不得意な科⽬がみなさんそれぞれにあったと思います。
勉強だけには限らず、本⼈の中の凸凹が社会⽣活を送る上で『障がい』になっていれば『発達障がい』という診断がつくこともありますし、診断がつかないまでも凸凹があるグレーゾーンと⾔われる⼦どもたちも存在します。
特に『⾃閉症スペクトラム』は明確に⽩⿊分かれるわけではなく線引きはとても曖昧で、スペクトラムという⾔葉が⽰すように、症状の現れ⽅や程度には⼤きな個⼈差があります。
発達には対⼈関係や認知、共感性などさまざまな要素が絡み合っているので、乳幼児期の⼦どもたちに接する保育⼠さんには、国の⼤まかな発達⽬安は理解した上で、発達⽀援の視点や知識を知ってもらい、⼦どもの「得意・不得意」や「発達の凸凹」に合わせた関わり⽅をしてもらいたいと思います。
「発達障がいがある⼦がいないから関係ない」は誤解
⾃分が担任をもつクラスには発達障がいの疑いがある⼦がいないから、特別な⽀援は必要ないという意⾒も⽿にしますが、私はそうは思いません。
先程もお伝えしたようにすべての⼦どもに、発達の個⼈差があり、また、どのタイミングでサポートの必要な⼦を担当することになるかはわかりません。たとえ発達障がいの診断がなくても、集団⽣活の中での⾏動に焦点を当てたとき、「平均」から外れる部分が⾒えた場合にも発達⽀援の視点を取り⼊れることで⼦どもたち全員にとって、良い効果が⽣まれやすくなります。
例えば、じっと座っていられなかったり、友達と上⼿に譲り合いができなかったりする⾏動は、⾃然な発達の段階の中でどの⼦にも現れる可能性があります。
そんなとき、特定の『発達障がいがある⼦』だけの⽀援にしてしまうのではなく、すべての⼦どもの発達の違いに⽬を向けつつ、⼀⼈ひとりの特性に合わせた関わりや環境調整を⾏うことが必要になってきます。
環境が変われば、その⼦の強みがより引き出されたり、逆に苦⼿な部分が⽬⽴ったりすることがあります。だからこそ、すべての⼦どもが安⼼して成⻑できる⼟台を作ることが⼤切です。
環境の変化によって⼦どもたちの発達は変わってきている
今の⼦どもたちは、デジタル化や便利な⽣活の影響で、幅広い遊びや⼿を使う経験が圧倒的に減っています。
たとえば、皆さんが⼩さいころは⽔を出すときに「蛇⼝をひねる」という動作を⾏なっていたと思いますが、今はセンサーで⾃動的に出たり、バーを上げるだけで出てきたりしますよね。
「蛇⼝をひねる」動作は⼿⾸のスナップを使います。この動きはのちの鉛筆で⽂字を書くときのなめらかな動きにつながっていく⼤切な動作です。
こういった⽇常の何気ない動作の機会が減ったことも⼀因となり、姿勢を保つのが難しかったり、不器⽤に⾒られるケースが増えています。
「発達障害」の認知度が上がり、受診や診断につながりやすくなった背景もありますが、こうした⾝近な環境の変化も、すべての⼦どもに発達⽀援の視点が必要だという理由になっていると思います。
「感覚統合」とは︖
感覚統合とは、発達が気になる⼦どもだけの問題だと思われがちですが、実はそうではないんです。
私たちが当たり前のように⾏っている動作も、実は感覚統合された結果の⾏動だったりするのです。
たとえば、この記事をスマートフォンやパソコンでスクロールしながら読んでいるときも、視覚と触覚を同時に使っていますよね︖追視(⽬で追って⾒ること)や指先のコントロール⼒でスクロールのスピードを決めて読む位置を調整しているわけです。
また、電⾞に乗っていて体が傾いたとき、転ばないようにバランスをとる動きは感覚統合の視点で⾒ると、「平衡感覚」を使っていることになります。
このように、私たちは流れ込んでくるさまざまな感覚情報を脳で交通整備するように処理しています。この働きこそが「感覚統合」です。
「感覚統合」も発達が気になる⼦だけの話ではない
⼦どもたちは0歳から6歳くらいまでの間に、五感などからたくさんの情報を吸収し、動作を獲得していきます。
例えば、歩けるようになった⼦どもは⼤⼈と違って⽬的もなくたくさん歩きたがると思います。歩きながらバランスを取ったり、脚をどれぐらい曲げれば段差を登れるかなど、⾝体を動かしながらさまざまなことを学んでいます。この動作もすべて感覚統合の⼀環なのです。
感覚には「平衡感覚」「固有感覚」「触覚」の3つの基礎感覚があり、それらを⼟台にだいたい0歳から6歳ぐらいの間に図で⽰した「感覚統合のピラミッド」にあるように、下から順番に積み上げながらいろいろなことができるようになっていきます。
⼀⾒ピラミッドが積み上がっているように⾒えても、⼟台となる部分がぐらぐらしていると、⼦どもたちは⽇常⽣活の中で困りごとを抱えるようになります。
例えば、⾜し算・引き算など計算⾃体はできても、字がうまく書けない、座ることが難しいといった学校での困りごとなどの原因に、実は感覚統合の課題があったりすることもあるのです。
⽇常⽣活の中で「なぜうまくいかないのだろう︖」と感じたとき、感覚統合のピラミッドのそれぞれの段階を振り返ることで、その⼦の発達段階が⾒えてきて、困りごとにアプローチしやすくなります。
私は普段、モンテッソーリ教室で3~6歳の⼦どもたちと活動をしていますが、⾝体や⼿を動かす活動は感覚統合の要素がふんだんに含まれていると感じています。
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保育⼠さんがすぐに取り⼊れられる具体例
⼿を使う遊びや⾝体を動かす遊びは、⼦どもたちの感覚統合を⾃然に促します。
以下の画像で紹介している活動例は全て机上でできるものですが、ほとんど100均などで材料を集めたものなので、簡単に取り⼊れやすいですよ。
例えば、紹介している『蓋開け』という活動は、化粧品などの空き容器などを活⽤したものです。開け閉めする動作を何度も繰り返すことで、⼿⾸や指先を動かす微細運動になります。蓋の中に⼦どもが好きな⾞のおもちゃを⼊れておくだけで、⼦どもは中⾝に興味を持って何度もチャレンジし、⾃然と蓋を開けることができるようになりますよ。
⼦どもが活動をしているときに、今どの動きを育てているのか意識するだけで、視点が変わり、発達を促しやすくなります。
3歳ごろまでは⼤きな動きや⼿全体を使う動きに没頭しますが、5歳・6歳になると細かい操作や左右の⼿を使い分ける動きも徐々にできるようになっていきます。
だからこそ、年齢や発達段階に応じた教材やおもちゃが保育室に準備されているのもとっても⼤事なことなんですね。
もちろん、机上の活動だけでなく、⼤きく⾝体を動かす粗⼤運動も発達には⽋かすことができません。
発達は⼤きな運動から⼩さな運動へ、⾝体の中⼼から末端へと進んでいきますので、外遊びでのダイナミックな動きと室内での⼯作をはじめとした⼿指を使う活動、両⽅ともとても⼤切です。バランスよく取り⼊れることができると良いですね。
ちょっとした⼯夫で反応は⼤きく変わる︕
感覚統合の視点を取り⼊れることで、⼦どもたちの姿は⼤きく変わっていきます。ここからは私の経験例を紹介しますね。
経験例①
姿勢が崩れやすく、活動になかなか集中できない年中のお⼦さんがいました。右ききなのですが、様⼦を⾒ていると作業をするときに押さえる左⼿が出てこなくて、左右の使い分けがまだ苦⼿なようでした。また、感覚刺激が⾜りないようで教室の中を歩き回る様⼦も⾒られました。
対応
教室では最初の活動に感覚刺激が⼊るような教材(⼿挽きのミルでコーヒー⾖を挽く活動や⼿回しシュレッダーで紙を裁断する活動など)を紹介して、感覚を満たしてもらうようにしました。保護者の⽅にもお願いし、外遊びやアスレチックなどの時間を意識してもらい、細かい⼿先の活動を⾏う前に⼤きな運動で感覚を満たしてもらうようにしました。
経験例②
鏡⽂字を書く年⻑のお⼦さんがいました。体幹はしっかりしていて姿勢にも問題はなさそうなのですが、⽬で⾒て真似をして書いたり、⾒⽐べたりすることが少し苦⼿なようでした。
対応
⽑⽷を巻く活動や縫いものの活動など、左右の⼿で別の動きをする必要がある活動、⼿元をしっかり⾒て⾏う活動を取り⼊れてみました。
経験例③
集団で⼦どもたちで指⽰をする必要があるけど、話していても聞いてくれない⼦がいて悩んでいる保育⼠さんのお話を研修先で⽿にしました。
対応
指⽰が通りにくい場合、周りの環境が話を聞くのに適しているか⼀度⾒直してみましょう。例えば、話をする先⽣の後ろに多くの掲⽰物があると⼦どもが集中できなくなることがあります。
何もない⽩い壁の前に⽴つだけで集中しやすくなることも。
また、指⽰を出すときに視覚的な情報を加えると効果的なことも多いです。ホワイトボードなどに写真を貼って次の⾏動を⾒せるなど、⾔葉に加えて⾒てわかるように⼯夫して伝えることで、⼦どもたちは指⽰を理解しやすくなります。このように、ちょっとした⼯夫で⼤きく成⻑を促すことができます。
感覚統合でつまずいているポイントはどこで⾒極めるのか︖
⾒極めは難しいですが、⼦どもたちが「これやりたい!」と⾃ら⾏動する様⼦が⾒られたとき、そこにヒントが隠されています︕
とはいえ、集団保育の場では、個々に合わせた対応はなかなか難しいことも多いかと思います。まずは、全体で⾝体を動かす、⼿を動かす両⽅の活動を取り⼊れることを意識してみてください。
保育園は、さまざまな動作を経験できる感覚統合の宝庫です。⽇常のルーティンや活動の中で、「この動きは何が鍛えられているかな︖」と考えながら⾏うだけでも、⼦どもを⾒る⽬が変わります。
わざわざ新しい活動を設定するのが⼤変なときは、毎⽇のルーティンになっていることからスタートするのがおすすめです。たとえば、ほうきとちりとりを使ってごみを集める動作も、実は左右の⼿の使い分け、⽬と⼿の協応といった形で感覚統合が関係しています。
⼀⼈でほうきとちりとりの両⽅を操作するのはよく考えると結構難しい動作だと思いませんか︖
だから、まずは先⽣がちりとりを持って、ほうきは⼦どもたちにやってもらうなど役割をきめて「掃く」という⼀つの動きだけすることから始めてもいいですね。
ちりとりにうまくごみを集められない⼦に対しては、床にチョークなどで丸を書いて⽬印を作ってあげて、「まずは丸の中にごみを集めようね」と伝えるだけで的に向かってごみを集めやすくなります。
このように、発達段階を理解して、考えながら⽇々の活動に取り⼊れるのが理想ではありますが、⽇々の保育が精⼀杯でなかなか学ぶ時間が取れない…という保育⼠さんは多いと思います。
そんな忙しい保育⼠さんのために保育場⾯ですぐに取り⼊れられる遊びをたくさん集めたおすすめの本を紹介したいと思います。
まとめ:すべての⼦どもに関わる『発達⽀援』の視点
私⾃⾝も⼦どもたちが⼆⼈合わせて9年間保育園でお世話になって、保育⼠さんには本当に感謝しています。保育⼠さんは、保育に関する⾊んなアイデアをたくさん持たれていていつも尊敬しているのですが、そのアイデアは発達⽀援に活かせるものが多くあると思っています。
「新しいことを1から学ばないと︕」と焦るのではなく、まずは今持っている知識に発達の視点を取り⼊れたら、どういう⾵に⼦どもたちの発達を促せるのかを考えてみてください。
そこで今回お伝えした感覚統合のお話が少しでも役⽴てば何よりです。ぜひ⼀緒に頑張っていきましょう︕
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