社会全体で働き方改革が進むいま、保育業界でも、労働環境や働き方の見直しが多く行われています。しかし、業務の種類も多岐にわたり、業務量も少ないと言えない保育士さんの働き方改革は、なかなか難しいもの。そんな現状の中、保育士さんの理想の働き方について本気で向き合う企業があります。今回は、株式会社アソシエ・インターナショナル代表、内山氏にインタビュー。子どもも職員も笑顔になれる、保育士にとって真の「働きやすさ」とは何か、保育士の理想の働き方を追及し続ける意味についてお伺いしました。
目次
株式会社アソシエ・インターナショナル代表 内山恵介氏
大手金融企業の営業と人事を8年間経験し、今から10年程前に自らプロデュースした認可保育園を開園。その後、大規模展開をしている保育園で取締役を担いました。大規模であるがゆえに、現場で働く保育士さんがどのように働いているかを実感しづらいと感じ、株式会社アソシエ・インターナショナルに入社。保育士さんが安心して日々保育に打ち込める環境作りに尽力しています。
子どもも職員も、笑顔ですごせる職場であるために
ーーーアソシエ・インターナショナルは、『東京都ワークライフバランス企業の認定』を受けるなど、保育業界の中でも非常に手厚い人員体制と福利厚生を整えています。なぜ業界に先駆けて、働きやすい環境づくりに取り組まれたのでしょうか。
私自身は異業種からの転職で、保育事業の経営にキャリアチェンジしました。転職前は、一部上場している大手の金融機関の人事のマネージャーとして、年間約800人の採用を8年間ほど経験しました。
新卒と中途、全ての採用を担当していたので、1万人から2万人ぐらいの方たちと面接でお話をしているでしょう。
アソシエ・インターナショナルの代表となった現在も、年間1000人近い保育士さんと面接します。そうして月80人、年間1000人の保育士さんと話をしていると、なぜ保育士の仕事を辞めてしまうのか、大きな理由が見えてきたのです。
異業種からの転職。だから見えてきた『保育に適した環境』
保育士不足と言われますが、社会一般では保育士を辞める大きな理由として、「保育士の給与が低いから」だと思われています。
もちろんどんな仕事でも、給与が高いほうがいいでしょう。
ところが、保育事業に転じて多くの保育士さんと面接するうちに、ネックとなるのは給与ではないことに気づいたのです。
ーーー保育士さんの転職の大きな理由が給与ではないとすると、どのような理由での転職が多いのでしょうか。
保育士の転職で、もっとも多い理由は『働きづらさ』。問題は『子どもたちのために良い環境で保育ができない』ことです。
「大好きな子どもたちと関わって、保育者として成長していきたい」と考えている人たちの転職理由は、給与だけではないのです。
大切にしたい「子どものために働きたい」という気持ち
近年、待機児童問題などもあり、保育士の働き方に社会的な注目が集まりました。自治体からの補助も手厚くなって、一定の処遇の改善は図られてきました。
それでも、保育現場の『保育士不足』は、いまだ深刻です。
保育計画や記録以外にも事務など、多くの作業を保育士が担っている現状を変え、「子どもたちのために働きたい」という保育士さんたちが、安心して働けるような環境を作る必要性を強く感じました。
異業種から保育業界に入ったからこそ、わかったことかもしれないですね。
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保育士さんが安心して保育できる『チーム体制』を整える
保育士さんたちが安心して働くためには、働く環境を『本来のあるべき形』に整備することが重要です。
必要な経験、知識、資格を持っている人が十分に配属されている環境を作る。この状況をしっかりと確保できれば、保育士さんたちに安心して働いてもらえるだろうと考えました。
得意分野を発揮してお互い補完しあうチーム作り
ーーー保育士さんたちが安心して働ける環境とは、具体的にどのような環境なのでしょうか。
私は、保育とは『チームプレイ』だと考えています。
でも、保育現場では、保育士が孤独を感じているというケースもあります。
例えば、子どもたちのために豊かな保育をしたいと思っていても、最低ラインの人員の確保だけでは、話し合う場を設けることも難しい。「今日の子どもの姿はこうだった」「あの子どもには、次はどう関わろう」と、明日の保育について、すぐに話せる相手がいないこともあるでしょう。
先生たちのスキルと経験が保育に生きるチームを作る
また、保育士さんの中にも経験やスキルには、一人ひとり特徴があります。
乳児保育、ピアノ、体操、製作が得意。でも別のスキルは苦手だったり、経験がないということは、誰もがあるでしょう。
保育士さんが孤独を感じず、ひとつの『チーム』として保育に取り組めるように、経験やスキルの特徴、得意分野を組み合わせて、お互いに協力して補完できるような体制作りが大切なのです。
チームで保育をするための環境作りを徹底
ーーー保育士さん同士がキャリアとスキルを生かして『チームを組む』ために、大切にしていることはありますか?
アソシエでは、新規の保育園を立ち上げる際のポリシーとして、園児の定員は70名以下を基本としています。この定員数だと、0~5歳児の6学年で1クラス10名前後です。
クラスとしては少人数になり、子どもたちが座るテーブルの距離も近くなるから、一人ひとりに温かく丁寧な保育ができる。
1クラスの規模が小さいので、全学年で集まるような異年齢での交流も可能です。
他の学年の子どもたちの顔や名前も覚えて把握できるので、万が一のときは他クラスでも、フォローできる状態がつくれます。
こうやって、まず環境を整えることで、保育士によるチームでの保育が実現すると思っています。
子ども一人ひとりと丁寧に向き合う適正定員と人員体制を整えている
保育士のライフステージに合わせた働き方を追及する
ーーー適正な定員と職員配置を決め、子ども一人ひとりと丁寧に向き合うことができるように、保育のチームを配置するのですね。
その上で、保育士同士がお互いに補完しあうのです。
例えばいま、アソシエでは9連休プロジェクトを取り入れています。年に1回、月の1/3を続けて休める期間を、全職員が必ず取得できる制度です。
「早く子どもたちに会いたい」と思うぐらいの長い休みを年に一回取ることで、有給をリフレッシュする時間とし、有効に使ってほしいと思い、取り組みを始めました。
もちろん一週間いない間は、誰かが代わりを担います。
長い目で見ると、キャリアの中で結婚・新婚旅行で1週間休んだり、妊娠・出産で1~2年休むことがある。その時に、みんなが仕事を補完しあって、続けていくための素地つくりにもなるだろうと考えたのです。
プライベートも充実。9連休プロジェクトを始動
ーーー保育業界で9連休取得を実施するのは画期的ですね。全員が取得するには、シフトや人員のやりくりがとても難しそうですが…。
年度始めや年度末、大きな行事など、連休を組むことがどうしても難しい月を除いて、1年間で9連休を取得できる週を事前に提示し、職員に希望アンケートを取っています。
希望多数の場合は、当事者同士で話し合うなどして調整してもらいますが、だいたい、第1希望から第3希望までの範囲内で決まります。
だから、年度が始まる前にはすでに、1年間のどこで有給を取得するか、決まっているんですよ。
9連休は確実に取れるよう、年単位で事前にシフトを計画
ーーー申請してもらってからシフトを組むのではなく、年度が始まる前に割り振って、休めるように確約するのですね。
はい、必ず9連休が取れます。みんな、9連休を楽しみにして予定を立てているようです。
例えば11月に休暇を取る予定のある保育士さんは、海外旅行に行くと言っていました。
その他には連休がない6月や、大きな音楽フェスが開催される7月の希望も多かったですね。
こうした運用により、かえって行事などの計画の見通しがよくなりました。
七夕、夏祭り、節分など季節折々の行事は、職員の中で担当を割り振るのですが、その行事と連休が重ならないように、行事の担当も事前に決めてしまいます。
「当たり前のことが当たり前」にできる環境と人員を整備
ーーー実際に、9連休をとっている間のフォロー体制や人員補助は、系列の他園から応援を頼むのでしょうか。
アソシエでは、最低限配置が必要な人数にプラス、数名のフリー保育士、園長と主任を専任でしっかり配置して人員を手厚くしているので、他の園に補助をお願いしなくても、シフトは回ります。また、日中は、職員同士で連携して、昼休み休憩を1時間しっかり取れるようにしています。
書類もICT化を進め、基本的には手書きの書類をなくし、連絡帳の記入もアプリに移行しました。
パソコン、タブレット、キーボード、スマートデバイスも使えるので、自分の使いやすいものを選んで使う。最近の若い保育士さんは、スマートデバイスのフリック入力がとにかく早くて便利なようです。
ーーー保育士さんが余裕をもって働ける環境を、とことん整えていらっしゃるんですね。
他の業種では、普通に休暇も休憩も取れ、働き方改革が進んでいます。
みんな大好きな子どものために長く働きたいと思っているし、プライベートも充実させたい。でも、この働き方では続けられないと思っている人が多い。 本来当たり前であることをきちんと徹底する。保育士さんたちに「働きやすい」と喜んでもらえる環境を作り続けたいですね。
長期的な信頼感を得る、地域に根ざした保育事業
ーーーアソシエ・インターナショナルのもうひとつの大きな特色に、地域を絞って集中的に系列園を展開する『ドミナント展開』があります。どのような意図があるのでしょうか。
ドミナント展開には「保育園で育った子どもたちの一連の成長を見届けたい」という、私たちの思いがあります。私たちが目指しているのは、保育園だけでの成長を見守ることではありません。
子どもの成長を見守り続けるための『ドミナント展開』
子どもたちの成長と生活は、地域にかなり密着しています。
最初はママがベビーカーを押して連れて行ける範囲内で行動する。そのあとは手をつないで歩いていける範囲内。小学校に上がると自分で通える範囲内。もうちょっと大きくなると自転車で走り回れる範囲内…という風に。
だから、地域に根差した子どもの成長を見守ることが大切なのです。
保育園から始まり、小学校入学後の学童クラブも、学童を卒業したあと中学生、高校生になって利用する児童館も、一貫してアソシエの施設で過ごしてもらえれば、子どもたちの成長を見守り続けることができる。
いろいろな地域に保育園を作り点を広げていくというよりは、地域に密着して面を広げていくことで、地域の方々、保護者の方々と信頼関係を築いていきたいですね。
保育士の『生活』と『学び』を地域でカバーする
ーーードミナント展開することで、保育士さんたちが働くうえでもたらす効果というものもあるのでしょうか。
職員に対して研修や研鑽(けんさん)の機会をたくさん用意できるのも、ドミナント展開の利点と言えるでしょう。
業界で著名な先生を研修の講師としてお招きした場合、ドミナント展開であれば、一度の研修で近隣地域のすべての園の職員が研修を受けることができます。一度に研修が行えるので、職員への豊かな学びの機会をより多く確保できます。
その他に保育をバックアップするために、アソシエ所属の臨床心理士や、栄養士のためのスーパーバイザーの先生を地域で配置し、各園を順番に巡回してもらっています。
ーーー地域内の子どもの特性や、各園の状況を客観的にフィードバックしてもらうことで、各園の保育の質がより高められていく効果も期待できますね。
ドミナント展開では、職員の生活環境に大きな変化がないことも、働く上での利点だと考えています。
例えば、もし何らかの理由で系列園へ異動しても、歩いて5分、バス停一個先だったりするので、転居を伴うような大きな環境の変化はありません。ただ、アソシエはほとんど異動がないことも特徴ですけどね。
ドミナント展開によって、職員が地域で安心して成長できる、働き続ける仕組みを作ることができるのです。
アソシエで実現できる『心から子どもと向き合う保育』
子どもの主体性を遊びで楽しく育てる保育
ーーー保育士さんにとって充実している環境の中で、アソシエ・インターナショナルでは、どのような保育を学ぶことができるのでしょうか。
アソシエでは、子どもたちがなんでも前向きに取り組んで生きていく姿に育つことを、保育の理念にしています。そのために、さまざまなアクティビティ・コンテンツを充実させています。
英語、スポーツ、アート、リズム。
さまざまなコンテンツがありますが、教育ではなく100%遊びを重視しています。子どもたちだけでなく先生も一緒に、遊びとして本気で楽しめるものであることが大切なんです。 内容は保育所保育指針に基づいて子どもの発達・発育の段階に合わせた非認知的能力の育ちを促すためのもの。
専門的な知識を持った社内専属のディレクターがオリジナルで考案し、各園の先生方と共有しています。
ーーー保育士さんたちも、子どもたちと一緒に遊べるアクティビティなのですね。
もちろん、保育士さんも本気で夢中になって、一緒に遊びますよ。先生方のために遊びの講師を招いて『遊びのワークショップ』研修も定期的に行っています。
どうやったら子どもたちが心底面白いと感じてくれるのか話し合い、みんなで1時間ぐらい、ワイワイ笑いあって全力で遊ぶような内容です。
ーーーすごく面白そうな研修ですね。専任のディレクターが身近にいることで、保育士さん自身も楽しみながら学ぶことができますね。
遊びも学びも本気で子どもたちと楽しむために
保育士さんは、子どもたちを教育して、コントロールする人ではありません。
ときには夢中になりすぎて時間も忘れてしまうぐらい、子どもたちと一緒に楽しめるような情熱を持った大人であってほしい。
だから直営の保育園で働く人は、園長先生からパートの方まで、必ず私が全員と面接しています。経験やキャリア含め、面接の中でお話をよく聞いて、保育で特性を生かせるように配属してチームを組む。
特に、未経験の方や新卒の方は複数担任から始められるようにしています。きちんと指導経験のキャリアを持っている人と必ず組んで、安心して保育に取り組んでもらうのです。
ーーー経験がなかったり、苦手なことがあっても、保育士さん同士がチームで補完しあい、お互い学びあえる環境なのですね。
そうです。だから例えピアノが苦手でも、運動が不得意でも大丈夫。
「子どものたちの笑顔のために働きたい」という情熱がさえあればいいのです。
※アソシエイ・インターナショナルで働く保育士さんたちの日々の姿は…?後編に続きます。