国家試験である保育士試験ですが、その難易度はどれくらいなのでしょうか?一般的にはその合格率は2~3割程度といわれています。このコラムでは試験の日程や内容、科目、免除制度、また合格率が低い理由を考えていきます。
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国家試験である保育士試験はどのような試験なのでしょうか?科目や日程、合格率から見ていきましょう。
保育士試験の科目
保育士試験には筆記試験と、その筆記試験を合格した人だけが受験できる実技試験があります。それぞれの受験科目についてまとめました。
筆記試験
筆記試験は8科目あります。科目は以下の通りです。
・保育原理
・教育原理及び社会的養護
・児童家庭福祉
・社会福祉
・保育の心理学
・子どもの保健
・子どもの食と栄養
・保育実習理論
科目の詳細についての説明は省略しますが、保育士としての基礎や児童福祉分野の制度内容、子どもの栄養や健康、成長に関する内容が中心となっています。
子どもそのものに関する知識を問ういわゆる「保育」の問題が出題される一方で、保育の歴史に関する人物名、法律の条文や制度の内容を問う問題も出題されます。幅広く児童福祉に関わるための知識が求められる試験です。
各試験で例年20問程度の出題があり、各科目6割の得点で合格となっています。
実技試験
実技試験は3科目中2科目の選択制です。
科目はピアノなどの演奏を試験する音楽表現、絵画などを試験する造形表現、子どもへの素話を試験する言語表現の3つ。どれも実際の保育の場面で必要になるものばかりです。実技試験も筆記試験と同様に合格点は6割のようです。
試験日程
試験は2016年から前期と後期に分けて年2回開催されています。
前期は筆記試験が4月、実技試験が7月(6月下旬の場合も)、後期は10月、実技試験が12月に開催されるのが一般的です。
2019年度は前期筆記試験が4月20日(土)、21日(日)、実技試験が6月30日(日)に、後期筆記試験が10月19日(土)、20日(日)、実技試験が12月8日(日)に開催予定です。
免除制度
科目合格の制度
保育士試験には科目合格の制度があります。これは一度合格した科目は通常3年間、再受験が免除される制度。年に2回試験があるため、筆記試験を通過するために6回のチャンスがあります。この制度のおかげで、受験する科目や勉強する科目を絞って筆記試験を通過することができるようになっています。実務経験がある方はさらにこの免除期間を5年間に延ばすこともできます。
幼稚園教諭免許を持っている方
幼稚園教諭免許を持っている方は「保育の心理学」「教育原理」「実技試験」が免除になります。これは、幼稚園教諭免許をとるために必要となる修得科目が保育に大きくかかわっていること、また養成校を卒業することでしか取得できない幼稚園教諭免許ですから実習を経験していること、が関わっていると考えられます。
さらに、2020年までの特例として、幼稚園教諭は一定の実務経験や保育士養成校で指定の科目を学ぶことで科目が免除される制度があるため保育士資格を取得しやすくなっています。
社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士の方
上記の資格のを持っている方は「社会的養護」「児童家庭福祉」「社会福祉」の科目が免除となります。幼稚園教諭と同様に、免除科目の分野に精通している方が取れる資格だからでしょう。
保育士試験の合格率について
保育士試験の合格率は2割程度といわれています。
筆記試験は2割~3割程度、実技試験が8割前後が一般的です。
2017年度の厚労省の調査によるとこの年の試験の合格率は約21.6%。
筆記試験と実技試験を個別に調査した資料で見ると、2014年度の合格率は筆記試験で21.3%、実技試験の合格率は88.7%、となっています。
医療福祉分野の国家試験の合格率と比較してみましょう。
まずは、福祉分野の国家試験である介護福祉士。2017年度の合格率は72.1%です。また医療分野で保育士と同様に女性の割合が高い看護師の国家試験の合格率も88.5%。試験の内容や受験者層の違いなどはありますが、それを考えても保育士試験の合格率はけして高いとはいえません。
受験資格について
受験資格は短大卒業程度の学歴、もしくは高卒・中卒の場合でも保育や児童福祉の関連施設で一定期間働くことで受験資格が認められます。
受験資格について気になる方は、保育士養成協議会のホームページに詳しい解説があるので、参考にしてみてください。
保育士試験の難易度は?
保育士試験の合格率は2割程度。国家試験であることを考えてもけして高い数値ではありません。その難易度の原因についてまとめました。
範囲の広さが課題
合格率が伸びない一因として、範囲の広さが挙げられるでしょう。保育士試験の科目内容の点でも触れましたが、科目内容や出題される問題の内容は幅広い分野です。児童福祉法や教育基本法の文章の穴埋めをする問題では、法律の条文を暗記が求められます。里親制度について問われれば、里親の種類やその制度概要についても理解しておかなければなりません。保育の分野では子どもの発達過程も問われますし、有名な絵本の作者も問われる場合があります。こうした内容も多岐にわたる試験範囲は難易度が上がらない要因の一つだといえるでしょう。
科目合格の制度で戦略的に受験をする人がいる
科目合格の制度を戦略的に利用しつつ受験しようと考えている方も一定数いるため、合格率の低さにつながっている要因でしょう。一部の科目を合格したら3年間は試験の免除ができるのが保育士試験の制度。1年間で2回の試験があり、各試験ごとのに4科目づつの合格を目指して勉強する方もいることでしょう。この制度を戦略的に利用する方もいることで、合格者の数が少なくなっていると考えられます。
保育士国家試験は難易度は高いが受験しやすい
保育士の国家試験は関連する業界の国家資格試験と比べても合格率が低いことがわかりました。科目の範囲も広いです。一方で、保育士試験は年2回受けられますし、科目合格の制度もあります。そのため、難易度は高く思われがちですが、挑戦しやすい試験だということができます。興味のある方はぜひ受験してみてくださいね。
出典:厚生労働省 第103回保健師国家試験、第100回助産師国家試験及び第106回看護師国家試験の合格発表について