前回に引き続き、「幼児クラスが大変」なことが、保育士を疲弊させてしまっている問題と、その解決方法を探っていきます。
前回のおさらい。
昨今の保育園では、特に幼児クラスが安定せず保育が難しくなっています。その対処として保育士が子供たちを「押さえつける保育」になりがちで、それは親や子供への否定的な見方を生んでいます。また、こうした背景は保育士が疲弊する原因ともなっています。こういった場当たり的、対症療法的に、問題点にばんそうこうを貼っているだけの状況を「ばんそうこう保育」と名付けました。
これを根っこから解決していくためには、幼児クラスへの対応に終始するのではなく乳児クラスへの注力が必要です。
安定しない幼児期の原因は現代の乳児たちの姿にある
安定しない幼児保育の原因は、その子たちが幼児になるまでの積み上げが不足している状況、つまり3歳未満児保育が適切に行われてこなかった、という点にあります。
具体的には…
・愛着形成の不全
・大人への基礎的な信頼感が持てていないこと
・肯定不足
これらが根っこにあり、それが次のような問題を派生させています。
・安心感の不足
・情緒の不安定
・攻撃的な姿
・生活する力の身につかなさ
発達というのは積み重ねが重要です。例えば、そもそも愛着形成のところでつまずいている子は、大人への信頼感を厚くしていくことは難しいです。また、周囲の子供との関わりも不安を覚えるものになります。
こうした原因から噛みつきが出ている子に対して、いくら噛みつきが良くないことを伝えたところで、それが身につくことはありません。
あくまでも、その子の問題の根っこへのアプローチからしていく必要があります。
簡単1分登録!転職相談
転職に関するご質問や情報収集だけでもかまいません。
まずはお気軽にご相談ください!
読んでおきたいおすすめ記事
保育士をサポート・支える仕事特集!異業種への転職も含めた多様な選択肢
保育士の経験を経て、これからは保育士のサポート役として働きたいという方はいませんか?責任の重い仕事だからこそ、人の優しさや支えが必要不可欠な仕事かもしれませんね。今回は、保育士さんをサポートする・支え...
在宅ワークで保育士資格を活かせる仕事とは?自宅でできる保育関係の仕事を徹底解説
通勤時間なく働ける在宅ワークをしたいと考えても「保育士は無理なんじゃないか……」とあきらめている方はいませんか?保育園の事務職や保育ママ、保育園業務のサポートなど、保育士の経験や資格を活かして自宅でで...
病院内保育とは。役割や仕事内容、病院内保育士として働くメリット
病院内保育とは、病院や医療施設の中、または隣接する場所に設置されている保育園のことです。保育園の形態のひとつであり、省略して院内保育と呼ばれることもあります。転職を考えている保育士さんの中には、病院内...
子ども・赤ちゃんと関わる仕事31選!資格の有無や保育士以外の仕事を関わる子どもの年齢別に紹介
子どもと関わる仕事というと主に保育園や幼稚園を思い浮かべますが、それ以外にも意外とたくさんあります!今回は赤ちゃんや子どもと関わる仕事31選を紹介!無資格で活躍できる職場もまとめました。子どもと携わる...
保育士を辞める!次の仕事は?キャリアを活かせるおすすめ転職先7選!転職事例も紹介
保育士を辞めたあとに次の仕事を探している方に向けて、資格や経験を活かせる仕事を紹介します。ベビーシッターなど子どもと関わる仕事はもちろん、一般企業での事務職や保育園運営会社での本社勤務といった道も選べ...
保育士から転職したい!転職先としておすすめの異業種22選。保育士以外の仕事やメリット・デメリットも
保育士以外から異業種への転職を考えている際、どのような転職先がおすすめなのでしょうか。今回は、次の仕事として保育士から転職しやすいおすすめの異業種22選を紹介します。保育士から異業種に転職するメリット...
保育園運営会社の仕事内容とは?本社勤務でも保育士資格は必要?働くメリットや求人事情まで
保育園運営会社にはどんな仕事があるのでしょうか?保育園運営会社で働くことは「本社勤務」とも呼ばれ、保育園の運営に携わる仕事として、主に一般企業に就職したい保育士さんにとって人気の高い職種のようです。今...
【2024年最新】保育士に人気の転職先ランキング!異業種や選ばれる職場を一挙公開
保育士の資格を活かして働ける人気の転職先をランキング形式で紹介!企業主導型保育園や病院内保育所、ベビーシッターなど保育士経験やスキルを活かせる職場はたくさんあります!今回は保育施設や異業種別に詳しく紹...
【完全版】保育士資格を活かせる仕事・働ける企業25選!
保育園で保育士として働くのが辛いと感じて、転職を考えているという方がいるかもしれません。しかし、せっかく取得した保育士資格を活かして働きたいですよね!保育士として得たスキルや経験は一般企業や福祉施設、...
【2024年最新版】幼稚園教諭免許は更新が必要?廃止の手続きや期限、対象者をわかりやすく解説
幼稚園教諭免許は更新が必要なのか、費用や手続き方法などを知りたい方もいるでしょう。今回は、2022年7月1日より廃止された教員免許更新制について詳しく、そしてわかりやすく紹介します。幼稚園教諭免許を更...
保育士は年度途中に退職してもいいの?理由の伝え方や挨拶例、再就職への影響
「年度途中で退職したい...けれど勇気が出ない」と悩む保育士さんはいませんか。クラス担任だったり、人手不足だったりすると、退職していいのか躊躇してしまうこともありますよね。そもそも年度途中で辞めるのは...
幼稚園教諭からの転職先特集!資格を活かせる魅力的な仕事18選
仕事量の多さや継続して働くことへの不安などを抱え、幼稚園教諭としての働き方を見直す方はいませんか。幼稚園教諭の転職を検討中の方に向けて、経験やスキルを活かせる18の職場を紹介します。保育系の仕事から一...
【2024年度】放課後児童支援員の給料はいくら?年代別の年収やこの先給与は上がるのかを解説
放課後児童クラブや児童館などで働く「放課後児童支援員」の平均給料はいくらなのでしょうか。別名「学童支援員」とも呼ばれ、「給与が低い」というイメージがあるようですが、国からの処遇改善制度などにより、これ...
保育士が働ける保育士以外の仕事21選。資格や経験を活かせるおすすめの就職先
保育園以外の職場に転職・就職先を探す保育士さんもいるでしょう。今回は企業内保育所や託児施設、児童福祉施設など、保育士さんが働ける保育園以外の職場を21施設紹介!自身の働き方や保育観を見つめ直し、勤務先...
- 同じカテゴリの記事一覧へ
事例から考える
実際の事例から考えていきましょう。
信頼感、愛着形成が不十分だった1歳6カ月女児 Aのケース
1歳児クラスから入園。
保育時間は7時30分~18時30分。しばしば迎えが遅くなる日もあり、スポット保育で19時まで預かることもある。週5日登園。
父親は仕事で不在がちで、ほとんど母親が子育てにあたっている。
その母はあまり子供に関わるのを好まないようで、終始笑顔やくつろいだ様子も見せない。
Aに直接怒ったり、叱りつけたりすることは多くないが、意に沿わないAの行動に対して無視したり、置いていく素振りをして言うことを聞かせようとしたり、「○○しないと△△してあげない」といった疎外を使って対応している。
Aは、園で自分勝手な行動を取ることが多い。しかし、ゴネや大人への依存という感じよりも、保育士に対しても関心が低い様子。
他児への噛みつきやひっかき、モノを取って反応を見るなどの行動が顕著。
対応として
ゴネや保育士への依存として出すのであれば、まだ他者への期待を持っている表れであるが、Aは保育士を始めとした大人への期待や信頼が薄い。このことは、他者への信頼感の形成や愛着の形成が不十分な可能性を示しており、そこへのケアが必要と考えられる。
また、Aの度重なるネガティブな行動は、大人からの否定的な関わりの多さが背景になっていると考えられ、そこに対して保育士が意図的に肯定のアプローチをする必要がある。
そこで、担当の保育士との関係を重視し、生活面や遊びにおいても保育士とのつながりを意識した関わりを継続していく。また、肯定的なアプローチに重点を置く。
経過
これを継続することで、それまでの保育者への無関心な状態から、ゴネや甘えの姿が出るようになる。甘えといっても当初は可愛らしい出方ではなくネガティブな出し方で、保育者も受け止めるのがしんどい類のものであるが、担任同士で補いながら続けていく。
その後、保育者へ後追いのような姿や、ゴネではなく甘えて泣くといった姿も見られるようになる。また、笑顔が出るようになり、他児ともおだやかに関わる姿も出てくる。
子供たちの心の成長を担保する
このように、心の成長や安定を長期的な視点で見すえ、そこに援助をしていくこと。
これを幼児クラスに移行するまでに重視し、積み重ねていくことが、結果として幼児クラスの安定を作り出します。
現状の保育施設においては、生活面や行動面を「できるようにする」ことに重点が置かれており、心の成長や安定、特に「手のかかる子」へのケアは後回しということもあるようです。
また、行事中心の保育運営を行っている施設では、どうしても行動面で子供たちが要求されることが増え、このような心の成長のつまずきを抱えている子は見落とされやすいです。
場合によっては、疎外や、園生活の中での否定がより積み重なり、かえってその子の根っこにある問題を大きくしてしまうことにもあります。
しかし、本来はこうした心の安定や情緒面に注力することこそが、現代の保育として欠かせないことです。長期的には、こうしたアプローチが保育施設全体の安定度を生み出し、無理のない保育は保育者の負担軽減にもつながるのです。
この「心の成長を担保する」役割こそが、現代の保育者が最も重視すべきことで、それができることが保育の専門性だと言っても過言ではないでしょう。
そのために保育者が配慮すべきこととしては、さらに以下の3つを挙げます。
●肯定不足
●保護者への子育て支援
●自主性・主体性の保育
これについてもまたの機会に見ていきたいと思います。
プロフィール
保育士おとーちゃん(須賀義一)
1974年生まれ。大学卒業後、男性としてはまだ珍しかった保育士(当時は保父)資格を取得する。
2009年、保育士としての経験などを元にブログ『保育士おとーちゃんの子育て日記』を開設。
現代の子育てに合った具体的な関わり方を伝えつつ、多くの人からの子育ての悩み相談にも応える。
著書に『保育士おとーちゃんの「叱らなくていい子育て」』『保育士おとーちゃんの「心がラクになる子育て」』(ともにPHP研究所)など。
東京都江戸川区出身、墨田区在住。一男一女の父親。