保育士のスキルをアップさせるため、ほとんどの園で福利厚生としても実施している「研修」。手遊びや食育、子どもの発達や園の運営を学ぶものなど、その内容は保育士の経験年数によってさまざまです。中堅保育士向けの外部研修として、2017年にはお給料のアップも期待できる「キャリアアップ研修」が始まりました。今回のコラムでは、保育士のお仕事になくてはならない研修内容についてくわしくご紹介しましょう。
保育士の研修とは?
研修には「外部研修」と「内部研修」がある
保育士が受ける研修は、大きく分けて2種類あります。
自治体や企業が主体となって園の外で受講する「外部研修」と、
保育園の責任者が主体となって園の中で受講する「内部研修」です。
どちらも保育士のスキルアップを目指すという大まかな目的は同じですが、研修によって内容や対象者が変わります。
研修に何を求めるか?
研修の目的は主に保育士のスキルアップです。
しかし、参加する保育士の経験年数によって、研修に求めるものは変化していきます。
東京都福祉保健局が行った「東京保育士実態調査」(2014年)のアンケートを要約すると、研修に求めることとして、このような意見があがっていました。
新人・若手保育士(20代~30代)
「工作や手遊びなどのバリエーションを取得したい」
「救命救急や食に関する知識(アレルギーなど)を身につけたい」
中堅保育士(30代~40代)
「資格が取れる研修を希望する」
「最近は一見して分かりにくい発達障害が増えている。そのような子どもの発達心理や接し方などを専門的に学びたい」
ベテラン保育士(40代以上)
「他園と交流を持つことで情報収集できる場があると良い」
「(園の運営について)保育計画や書類など、データ管理ができるようパソコンの習得を
一番に考える」
新人保育士は日々の業務の向上、ベテラン保育士は園の運営の向上を求めていることが伺えます。こういった要望を満たすためには、研修にもバリエーションが必要です。
研修はほとんどの園で行われている
研修は福利厚生に加えられていることが多く、全国ほとんどの保育園で実施されています。いったいどのくらいの頻度で行われているのか?「第2回幼児教育・保育についての基本調査」の資料をもとに、具体的な数字を見ていきましょう。(2012年の調査結果)
内部研修の頻度
週に1,2回…44.5%(私立保育所)45.6%(公営保育所)
年に数回…45.1%(私立保育所)40.2%(公営保育所)
外部研修の頻度
年に数回…79.6%(私立保育所)80.8%(公営保育所)
週に1,2回…14.2%(私立保育所)12.5%(公営保育所)
内部研修は、半数程度の園で月に1回以上は行われているようです。それに比べて、外部研修は年に数回が約8割程度と、回数が少ない傾向があります。内部研修は比較的手軽に実施できますが、外部の研修に赴くためにはそれなりに時間や手間がかかるというのが原因のようです。
内部と外部含めて「研修を実施していない」と答えた園は0.7%~6.7%ほど。全国ほとんどの園で何かしらの研修は実施されています。
「外部研修」について
園の外部で行う研修は、キャリアアップやリーダーシップを学ぶことを目的とした、中堅以上の保育士を対象としたものが多いです。
中堅保育士向けの「キャリアアップ研修」
2017年4月、保育士の待遇向上と専門性の強化に向けて、厚生労働省は「キャリアアップ研修」を実施することを決めました。研修を受講することで、副主任保育士、専門リーダー、職務分野別リーダーの3つの役職がつき、お給料の増加も期待できます。仕組みが少々複雑なので、項目に分けて説明します。
どんな人が受講できるの?
この研修は、誰でも受講できるわけではありません。
役職に就ける人数は「園ごとに〇割まで」と決められているため、その人数までしか受講できませんし、人員の選出方法は各園に任されています。具体的な内容は以下の通りです。
※専門リーダーと副主任保育士では、受講する研修の内容と仕事の範囲に差があります。
仮に17名の職員が働く保育園で想定すると、
職務分野別リーダーは、(17名−園長1名+主任1名)÷5=3名
副主任保育士と専門リーダーの合計人数は、(17名−園長1名+主任1名)÷3=5名
まで園の中で任命できるということです。
手当はいくらもらえるの?
副主任保育士と専門リーダーは月4万円
職務分野別リーダーは月5千円
まで、処遇改善手当が支給されます。しかし、この費用はあくまで国と自治体から、園にまとめて支給される形になるので、その金額がどのように職員に分配されるかは園の方針によって決まります。
必ずしも満額の4万円を受け取れるわけではないのですが、キャリアアップ研修の修了者は賃金が上昇する可能性がかなり高いでしょう。
キャリアアップ研修の内容
研修の内容は1~8まで8つの分野に分かれています。
1、乳児保育
2、幼児教育
3、障がい児保育
4、食育・アレルギー対応
5、保健衛生・安全対策
6、保護者支援・子育て支援
7、保育実践
8、マネジメント
職務分野別リーダーは1~6まで
専門リーダーは上記8つから4つ以上の分野を
副主任保育士は8マネジメントのに加えて、1~7から3つ以上の分野を受講していきます。
園長や主任向けの「マネジメント・リーダーシップ研修」
外部研修の中には、中堅以上の主任や園長向けの研修もあります。
主な内容は、
・コーチング研修…職員たちの指導者として各職員のスキル向上を図る
・リーダーシップ研修…職員同士のチームワークや育方法成を学ぶ
・マネジメント研修…子育て支援の拠点として、地域との連携や園の運営を考える
新たな保育関連知識や実技を学ぶ研修
全職員を対象とした外部研修で子どもの救急対応や保健、子どもの発達や虐待への対応など、保育の知識や実技を学ぶ研修も多く開催されています。
専門家でなくては分からない内容は、外部研修として実施されていることが多く、ある分野に特化した社会福祉法人やNPO団体を中心に勉強会のような形で研修を開催していたり、自治体を中心として救急救命や防災などの実技を研修している場合もあります。
主な研修の分野としては次のようなものがあります。
・乳児保育
・障害児保育
・病児保育
・保護者支援
・食育
・虐待への対応(保育ソーシャルワーク)
・救命救急
・災害時対応
・リトミックや手遊びなどの保育実践
こうした新たな知識や実技を学ぶことにより、園全体で保育の向上を目指します。
他の園への視察研修
系列園や先進的な保育を行っている園での見学も研修の一環として組まれる場合があります。保育園の中でも、独自の保育を実施している園や職員の取り組みによって業務効率が上がっている園の見学会が開かれることもしばしばあります。こうした園を他園の職員が見学することによって、その保育を取り入れたり、園の業務改善につながるヒントを得るのがこうした研修の目的です。
一部の社会福祉法人や株式会社では、海外にも交流のある施設があり、優秀と認められた系列園の保育士が合同で、海外視察研修を行うことも。
他の園や、海外の保育を見学することで、保育観や自身の勤める園での業務のあり方を考えるきっかけを作る研修です。
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「内部研修」について
内部研修は、手遊びなどの保育スキルやビジネスマナーの指導など、新人~中堅保育士の基礎力を身に着けるものが多いでしょう。
新人研修
新人を採用する保育園なら、ほとんどのところで行われている研修です。
電話の受け答えなどといった基本的なビジネスマナーから保護者との接し方まで、社会人としての常識を学んでいきます。
先輩保育士から新人へ指導していく形が一般的ですが、過去の事例を参考にして新人同士でディスカッションしていく場合もあります。
OJT(On-the-Job Training(オンザジョブトレーニング)」という形で、新人に実際に仕事をしてもらいながら先輩がアドバイスを重ねる研修方法もあります。
保育スキル研修
絵本の読み聞かせや手遊び、リトミックなど、保育のスキルを向上させるための研修です。
新人保育士は、「どうしたら子どもを喜ばせられるか?」という引き出しがまだまだ少ないため、こういった研修を開く園がたくさんあります。
学んだことをすぐに生かせる、中堅保育士にも人気の研修です。
その他の研修
内部研修といっても、先輩→新人に教えるものばかりではありません。
経験問わず職員全体に学んでもらうため、外部の講師を招いて行われる研修もあります。
具体的には、食育や救急対応、子どもの発達をテーマにしたものなど、専門知識を必要とするものが多いです。
研修の充実した園で働くには?
就職先を選ぶのに研修を重視している人は多い
保育士が就職先を選ぶ条件として、多くの人が勤務形態やお給料、園の運営方針などを挙げますが、それに次いで「研修などの再教育プログラム参加」を希望する割合も高いです。
東京都福祉保健局の調べによれば、保育士未経験者の18.0%、保育士経験の者の13.4%。
キャリアアップややりがいを求めている人数も多く(3割前後)、就職先を選ぶ際に、研修制度の充実はある程度求められているようです。
研修制度が充実した園の探し方
実際に、研修制度が充実した園で働くにはどうすればよいでしょうか?
求人票を比較していくと、ニューオープンの保育園や、複数の園を運営している大手法人、職員数の多い大規模園などは、研修制度が充実している傾向があるようです。
中には、海外の保育施設と提携して海外研修を行う園もあるので、求人をよく比較して自分が成長できる園を探しましょう。
研修に行ける体制が整っているか?
福利厚生に「研修制度充実!」と書かれた園の中にも、休日を潰して参加しなくてはいけなかったり、研修中の仕事を持ち帰らなくてはならないケースがあるようです。
特に外部の研修に参加する場合、交通費がかかったり、参加している間の職員の穴埋めなどが必要になります。福利厚生にこの手当てまで含まれているかどうかで園の意識も伝わります。研修充実の園を選ぶ場合は、研修に行ける体制がきちんと整っているかも確認しましょう。
まとめ 保育士が研修で学ぶこと
保育士の仕事は、続ければ続けるほど学びたいことが増えていきます。
わざわざ足を運ぶのが面倒に感じることもあるかもしれませんが、参加することで新たな刺激を得られたり、業務の幅が広がるはずです。
ぜひたくさんの研修を受けて、素敵な保育士を目指してくださいね。
参考:東京都福祉保健局「東京都保育士実態調査」2014年
http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2014/04/DATA/60o4s201.pdf
参考:ベネッセ教育総合研究所「第2回幼児教育・保育についての基本調査」(2013年)
https://berd.benesse.jp/up_images/research/research24_pre1.pdf