いま、子育てに一生懸命なお父さん、お母さんがおちいりやすいのが、子どもの「いいなり」になってしまう関わりです。
「子どもを尊重することは大切だから、子どもが要求したことはできるだけ叶えなければいけない」
漠然とそのようにとらえていて、子どものいいなりになることを積み重ねてしまい、あとあと大変な子育てになってしまう人は少なくありません。
一方で、保育士の方は、
「子どものいいなりになることは、子どもの尊重とはちょっと違うよなぁ」
と違和感を感じていると思います。
それでは、いったい「子どもの尊重」とは、どんなことなのでしょう。
言葉としては当たり前のように使われながら、保育実践のなかでは、具体的にどうすることなのか、いまいちつかみにくいところは、前回の「子どもの人権」のお話と似ていますね。
今回は、この「子どもの尊重」について考えていきます。
子どもを下にみても、上に見てもいけない
「子どもの尊重」のとらえ方にもふたつの方向があります。
子どもを上にみるか下に見るか、という方向です。
でも、このどちらにしても、実はあまりよいかかわりとはいえません。
子どもを下に見る 端的な例が体罰
まずひとつは、子どもを下にみてしまうものからお話ししますね。
かつての日本社会においては、子どもと女性は男性に従属すべきものと考えられ、下に見られていました。(ちなみに日本で女性に選挙権が与えられたのは、男性に遅れること約55年、戦後 の1945年のことです)
こうした流れがありますので、ともすると子どもは簡単に大人以下の存在とみなされてしまいます。
例えば、端的なものには体罰があります。
「子どもは言ってもわからないものだから叩いてしつけるのだ」
といった言葉が、悲しいことに今でも聞かれますが、これらは子どもを下にみる意識から導き出されているものです。
これは子どもを尊重することが、当然のように求められている現代においてありえないことです。
「子どもを尊重しなければ、でもどうすれば?」が結果的に子どもを上にみてしまう
さて、それに対して もう一つは子どもを上にみてしまうものです。
これは、子どものいいなりになる関わりがその代表的なものでしょう。
しかし、むしろこういった子どもへのアプローチのあり方は、「子どもを上にみよう」と意識してやっているというよりも、「子どもを尊重しなければならないことは理解している、でもそのためにはどうすればいいかわからない」といったある種の混乱が行き着かせている落としどころに、いいなりやそれに類する大人の関わりがあるような気がします。
この状況が、親としての一般の人だけでなく、保育者にも同様にあるのを感じます。
具体的には、次のような場面です。
給食で毎回好きな場所に座らせるのは「子どもの尊重」?
ある保育園で、2歳児クラスの食事の時間のことです。
子どもたちの食事をする席が決まっておらず、毎日自由に好きな場所に座らせているということでした。
どうしてそうしているのですか?と訪ねると、「子どもの意思を尊重してそうしています」とそこの職員は答えました。
ここでは、「子どもの意見を聞き入れること」=「子どもの尊重」ととらえているわけですね。しかし、これは必ずしも適切な「子どもの尊重」の理解ではありません。
少しケースを変えて考えてみます。
仮に子どもが病気にかかり、それを直す薬が大変苦いものだったとしましょう。
子どもがその薬を苦いから飲まないと言ったとき、「はい、じゃあ飲まないでいいですよ」というのが果たして子どもの尊重になるでしょうか?
なりませんよね。
子どもはひとりの人間であり、存在としては大人と対等ではあるけれど、大人の保護や導きが必要とされる存在ですので、なんでも子どもの思い通りにすることが「子どもの尊重」ではありません。
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子どもを尊重するには、子どもにとって「必要なことという視点」を持とう
ここに、子どもの尊重を考えるときに必要なことが見えてきます。
それは、大人と子どもの立ち位置の問題です。
大人が子どもの生活や成長のために必要と判断されるときは、子どもの意思よりもそれを優先することがありえるのです。
僕はこれを、「必要なことという視点」と呼んでいます。
「子どものために必要なことだから」と合理的な判断を大人が下せるときは、そちらを堂々と優先させていいのです。
いまの薬の例で言えば、「健康のために必要。だから子どもには我慢して飲んでもらう」と考えられます。
食事の席のケースで考えれば、「子どもの生活習慣の獲得や、食事への集中、情緒の安定、安心を形成するために、固定した席に座って食べることが必要」と考えられるわけですね。
今回のポイントのひとつが、この「必要なことという視点」でした。
尊重は、相互的であって初めて成り立つ。一方が我慢するだけでは×
もうひとつ大切なポイントがあります。
それは、尊重というのは相互であってはじめて成り立つということです。
先ほどのケースのように子どもの希望を叶えたり、意思・要求を聞き入れることを尊重と考えてしまう傾向が一般にはあるようです。
このとき、無意識に「自分が自己犠牲をしてでも」と考えてしまう人は大変多いです。
「自分が我慢をすること、それが相手を尊重することなのだ」
といった意識を持っているということです。
この認識は間違っています。
それでは、一方がわがままになり、一方は疲弊していくことになります。
これを子育てや保育として続けていっても、結局うまくいきません。
「相手を尊重する」というのは、同時に「自分も尊重してもらう」という視点が欠かせません。
保育においては、自分や、周囲の都合もその子どもに伝えて、その子自身に考えさせることが、実はその子を尊重しているということになります。
尊重とは、お互いが尊重される関係になって、はじめて成り立つもの
例えば、大人同士がなにか会話をしているところで、周りで子どもが騒いでいたとき。
その子どもが騒いでいるのを「我慢すること」がその子への尊重なのではなく、「いま私たちは大事なお話をしているので、ここでは静かに過ごして下さい」とその子に伝えることが、本当にその子を尊重しているということです。
それで、子どもがすぐに静かになる、というものでもないかもしれません、しかし、それをその子が考えて「理解していくことができる」と信じることも、またその子への尊重につながるのです。
このときの対応は、子どもを上に見ているわけでも下に見ているわけでもありません、大人である自分と対等の存在として尊重できているからこそ、堂々と必要なことを伝えられているわけです。
このように、「尊重とはお互いが尊重される関係になってはじめて成り立つ」このことが、もう一つの大切なポイントなのです。
プロフィール
保育士おとーちゃん(須賀義一)
1974年生まれ。大学卒業後、男性としてはまだ珍しかった保育士(当時は保父)資格を取得する。
2009年、保育士としての経験などを元にブログ『保育士おとーちゃんの子育て日記』を開設。
現代の子育てに合った具体的な関わり方を伝えつつ、多くの人からの子育ての悩み相談にも応える。
著書に『保育士おとーちゃんの「叱らなくていい子育て」』『保育士おとーちゃんの「心がラクになる子育て」』(ともにPHP研究所)など。
東京都江戸川区出身、墨田区在住。一男一女の父親。