夢を大切にする子どもと大人が集まる保育園「RISSHO KID’Sきらり」
Twitterで話題の男性保育士てぃ先生。
最も近い目標としている夢は、自分で保育園をつくること。
(てぃ先生が保育園をつくりたい理由はこちら)
「てぃ先生の園長見習い中」は、てぃ先生が実際に保育園を訪問し、
保育園を経営する先輩からヒントをもらう対談企画です。
第5回目となる今回の対談相手は、小田急線相模大野駅から徒歩5分ほどの場所にある、RISSHO KID’Sきらり。
商業施設の2階部分を利用して作られ、園庭もないコンパクトな園であるにもかかわらず、一歩園内に足を踏み入れてみると、
さまざまな環境づくりの工夫が施されていることが分かりました。
園長の坂本喜一郎さんは「きらりは”夢を叶える”がコンセプトの保育園なんです」と語り、
子どもも大人も思わずワクワクしてしまうような園内を案内してくださいました。
坂本さんが考える”夢”とは一体どのようなものなのでしょうか?
■話を聞く人
てぃ先生。Twitterフォロワー数40万を超える現役保育士。
Twitter原作のマンガ『てぃ先生』のほか、
書籍『ほぉ…、ここがちきゅうのほいくえんか。』『ハンバーガグー!』を刊行。
マンガのアニメも公開中!(タテアニメ)
https://twitter.com/_happyboy
■話を聞いた相手
坂本喜一郎さん。社会福祉法人 たちばな福祉会
RISSHO KID’Sきらり園長。
過去には小学校の教諭として働いていたが、幼児教育に興味を持ち、幼稚園に転身。
その後、実家の母が営む保育園に就職し、副園長を務める。2012(平成24)年には、RISSHO KID’Sきらりを立ち上げる。
幼児教育に衝撃を受け、小学校から保育の道へ!
てぃ先生:今日はよろしくお願いします。坂本さんはなぜ、こちらの保育園を
作ったのでしょうか。
坂本さん:僕はもともと、保育の世界に入る前には小学校の先生をしていたんです。
低学年のクラスばかり担任していたのですが、入学してくる1年生の姿を見て、
「なんで話を聞けないんだろう」「なんでひらがなが書けないんだろう」とネガティブな思いを抱えていました。
あるとき「待てよ」と思ったんです。
目の前の1年生たちがこれまでにどんな教育を受けてきたのか知らないのに、
小学校側が一方的にネガティブなイメージを抱いてしまうのはおかしいと気づき、附属の幼稚部へ遊びに行ったんです。
そこで、衝撃を受けました。初等教育と幼児教育の子どもの姿はこんなに違うのか!と。
遊びを通して学ぶのが幼児教育だったんですね。
以来、ものの見方が変わり、幼児や幼児教育について勉強しない限り、理想の初等教育はできないと思い、
幼稚園と連携して乳幼児教育の研究を始めました。
「そんなに楽しいなら、幼稚園の先生になれるよ」と上司から言われるほど研究にのめり込み、
社会人11年目で幼稚園教諭に転職したんです。
その後、実家が営む保育園で副園長を務めたのち、6年前にRISSHO KID’Sきらりを立ち上げて園長に就任しました。
保育現場に入ってから今年で16年目になります。
てぃ先生:僕も今、保育士10年目なのですが、
坂本さんは小学校教諭を10年間経験してから保育の世界に入ったんですね。
坂本さん:10年間なにかを続けるというのは、一流になるということですよ。
何かをやらなくては、伝えなくては、と思う時期なんですよね。だからてぃ先生も、現在のような活動をしているのでは?
きっと新人の保育士だったら、日々の仕事に精一杯で、発信しようなんて思えないだろうなあ。
てぃ先生:坂本さんは、現在の保育を確立するまでに、どんなことをしてきたのですか?
坂本さん:初等教育の世界から入ってきたので、
とにかく乳幼児教育をたくさん見ないと普遍性が分からないなと思い、評判の園を片っ端から見学しました。
本を読むだけでなく、自分で足を運び、その場の空気を味わうことで初めてどんな園か分かります。
尊敬する先生たちの園を見ていく中で、自分の理想の保育の形を確立していったんです。
子どもたちの願いや夢の変化に合わせて、環境を変えていかなくてはいけないこと。
子どもたちが、床に座ったり、狭い空間に入ってリラックスし、息を抜く瞬間を作るのが大切であること。そういったことを学びました。
遊びを通して学んだことが小学校に繋がる
てぃ先生:僕は保育園の子どもたちを見ていく中で、この子たちが小学1年生になった時にどんな姿になるんだろう?と気になっています。
小学1年生の姿を見ないと、本当の意味で良いアプローチができないと思うんです。
小学校と乳幼児教育の場の両方を見てきた坂本さんは、どう思いますか。
坂本さん:本格的に勉強が始まるのは小学1年生の時からですが、
4歳くらいでひらがなに興味を持ってお手紙を書く子もいます。
遊びの中でひらがなに触れていれば、小学校入学時に読み書きができるのは当たり前だと僕は思っています。
以前、小学校の校長先生に、子どもたちはいつから勉強につまずくのか聞いたところ、
早い子は1年生の5月、連休明けにはドロップアウトしてしまうそうなのです。
読み書きができなければ文章問題が理解できないし、教科書だって読めない。これは致命的です。
こういった子たちは、遊びを通して学ぶ機会に恵まれていなかったのだと思います。
坂本さん:きらりでは子どもの主体性を最大限に尊重する保育を大切にしていますが、子どもたちが主体的な遊びを通して学んだことが、
小学校の学習の土台になるはずです。
あとは、椅子に座れない子が小学校で問題になっていますが、乳幼児期に自然に座る習慣をつけていれば、こんなことにはなりません。
そのためには、子どもたちがワクワクするような話を保育士がすることも大切です。
思わず聞きたくなる、自分も話したくなる、そういった経験をした子どもは、人の話を聞くのが好きになりますから。
逆に、「こうしなさい」「しちゃいけない」と命令や禁止、ルールばかり聞かされた子どもは、大人の話に魅力を感じなくなってしまいます。
てぃ先生:たしかにそうですね。
僕も普段、子どもたちが楽しくなる話をしようと心掛けています。
坂本さん:小学校の先生だって同じなんです。
小学校の先生が子どもが興味を持てないような話をしたら聞くはずがありません。
僕の考えとしては、小学校がもっと乳幼児教育の場に歩み寄るべきだと思っています。
ですから、乳幼児がもっと背伸びをしろという意見には反対です。
もっと間近で乳幼児の姿を見て、考え直すべきところが初等教育にはあるんじゃないかと思います。
てぃ先生はもうすでにやっていると思いますが、手紙を書いて楽しんでいる姿、トランプ遊びで数字に触れている姿など、
遊びを通して学んでいる保育の様子を発信していくことが、小学校の先生たちの新たな気づきが生まれるきっかけになるのではないでしょうか。
隠れながら遊ぶことができる環境
てぃ先生:子どもの主体性を尊重した保育を行っていると仰っていましたが、
きらりの保育の特徴を教えてください。
坂本さん:坂本さん:よく見かける従来の保育は、一斉型の設定保育です。
しかしこれは、現在最も課題視されている保育なんです。
例えば、壁面に同じテーマの作品を飾るなど、みんなで一斉に同じことをやると、保護者と保育者は安心するけれど、
子どもたちはちっとも満足していません。やりたい子もやりたくない子も、同時に同じ活動をさせられ、
勝手に比較され優劣を決められてしまう。「うちの子だけ、なんでできないんですか」と嘆く親もいます。
きらりでは、強制的に何かを作らせたり、やらせたりすることはしません。
子どもたちが興味のおもむくままに好きなものを作る姿が保障されているので、個々の個性や思いが大切にされた多様な作品ができあがるんです。
だから誰も比較のしようもありません。
てぃ先生:棚には、子どもたちが作ったブロックがそのまま飾られていますね。
坂本さん:園によっては、時間がくると壊して元に戻すように指示するところもありますが、
それは大人による破壊行為なんですよね。
せっかく組み立てたブロックを壊すのって、せっかく作った料理を捨てろと言っているのと同じことなんです。
保育士が当たり前のようにやっていることの中には、実は矛盾がたくさんあるんです。
きらりにもまだ矛盾はあるけれど、一個ずつ分析してみんなで改善していくことで、どんどん魅力的な環境に変わっていくはずです。
てぃ先生:うちの園も同じ考えで、そうしています!
ところで、保育室の設計も特徴的ですね。ロフトなどがあって面白いです。
坂本さん:坂本さん:園の設計は、1年間かけて全部自分たちで考えました。
現場の保育士のアイデアも入っています。
きらりの環境や空間デザインの特徴は、子どもが隠れながら遊ぶ場所があることです。
危ないとか、怪我をするのでは、と思われるかもしれませんが、
子どもはいつも大人に見られながら遊びたいわけではないんですよね。
大人の目が届かない場所に入ると、すごく落ち着くんです。
先生と一緒にやるときもあるけれど、自分たちだけで楽しめる空間を自由に選択できると、
気持ちが穏やかになり、怪我や事故も起こらないのです。
ただ単に、おしゃれな設計の園は、大人の満足のために作られていて、子どものための場所になっていないことが多いんです。
子どもが思わず触りたくなる、やりたくなるような環境作りが大切だと思います。
子どもだけが入ることができる洞窟。
坂本さんいわく、「究極のくつろぎの場」だそう。今回は特別に、てぃ先生がお邪魔しました。
坂本さん:保育室の床面積は広ければ広いほど良いと思っている人たちも多いようですが、
ただ広いだけでは子どもは走り回り落ち着きがなくなります。狭い面積であっても、工夫次第で子どもたちが自ら成長できる環境を築けるんです。
きらりに見学に来られた方たちは、特にお父さんが環境を気に入ってくれることが多く「俺の屋根裏部屋にしたいな〜」なんて言う方も。
保護者と一緒に初めて園見学に来た子どもたちも、何も言わずに真っ先に遊び始めます。
自分で遊びの素材を選び、自分で遊びたい場所へ行く
てぃ先生:幼児クラスは、部屋ごとに雰囲気が違いますね。
坂本さん:2歳児クラスまでは遊びと生活が一体となっている必要性があるので、
保育室の中に生活空間もありますが、3〜5歳の幼児クラスは、遊びに特化した部屋になっていて、生活空間がありません。
生活習慣を身につける時期の乳児に対し、幼児はすでに身につけているので、
部屋の中では遊ぶ、食事やロッカー等の生活空間は別に設けています。
保育室は3・4・5と別れていますが、部屋ごとに環境が違うので、自由に行き来していいことになっています。
自分がやりたいことに合わせて子どもは遊ぶ場所を変えるんです。
また、子どもたちは自由に遊びの素材を取って使えるようになっています。
みんなで江ノ島の海に行って貝殻や石を拾ってきたり、保育士と一緒に百円ショップへ買い物に行くこともあります。
そのため、保育士が残業をして買い出しに行く必要はありません。
子どもたちにとっても、必要なものを選んで見て買うという経験は、社会勉強になります。
女の子に人気のおしゃれコーナー。
針と糸、ミシンまで使い、子どもたちが自由に服や装飾品を作っている。
てぃ先生:石を集めたり、ミシンを使って洋服を作ったり、
それぞれ興味のあるものを選んで遊んでいるのですね。
坂本さん:子どもたちの流行は毎年変わるので、それに合わせて環境もどんどん変わっていきます。
今年は古着を使った洋服作りや、ケーキ作りが流行っています。
一部の男の子たちの間では、電車が流行っていて、東京駅に新幹線を見に行ったこともあります。
てぃ先生:東京駅ですか。随分と遠くまで行くんですね!
坂本さん:江ノ島や東京駅、新宿駅など、
子どもたちの興味に合わせてその日の朝に行き先を決定することもよくあります。
基本的には自分の足で行く、というスタンスを取っているので、一人一枚ずつICカードを持って電車に乗って出掛けるんです。
ハイリスクな海の岩場や山には必ず僕が同行しますが、
その他の日常的な場所であれば保育士と子どもたちだけで出掛けていきます。
保育士は、夢を持ったスペシャリストたち
てぃ先生:採用の時に重視しているポイントはありますか?
坂本さん:採用試験の時に、その人の夢を聞くようにしています。
あなたの夢を僕が叶えたいと思ったら採用します、と伝えているんです。
きらりのコンセプトは「夢を叶える」なので、大人にも夢を叶えたいという気持ちで働いてもらいたいと思っています。
例えば、過去には「海の素晴らしさを子どもたちに伝えたい」と言っていた人を採用しました。
その人は、学生の時にきらりの子どもたちと磯遊びをして、海の楽しさを実感し、ダイビングのライセンスまで取ってしまったんです!
つまり、海のスペシャリストです。保育士なのに海のスペシャリストって初めてだから、面白い!
と思い採用しました。
このように、夢を叶えたいという思いで働いている保育士が集まっているから、うまくいっているのだと思います。
てぃ先生:
海のスペシャリスト、いいですね。
僕が保育園を立ち上げたら、二足のわらじを履いている保育士を採用したいと思っているんです。
ピアノの先生とか、絵画の先生とか。
ただ子どもの面倒を見ているだけの仕事って、保育士じゃなくてもできると思うんです。
子どもたちに伝えられる何かを持っている人がいいなと考えています。
坂本さん:先生とは、子どもより「先」に「生」きている人のことです。
子どもたちに「何を伝えることができる」のか。子どもたちを安全に見守る養護の部分だけをやっている保育者も多いのですが、
それだと伝えられるものがないんですよ。
それから「子どもが好きだから子どものために何かをしたい」という思いは大前提であり、それはプロにふさわしい目標とはいえないかもしれませんね。
保育士の処遇改善が叫ばれていますが、保育士が養護だけでなく、プロとして「教育」の部分をしっかりと行い、
保育の質を高めていかなくてはいけないと思います。
1000万円プレイヤーの保育士を
てぃ先生:僕が園長になった時には、担任保育士の中から1000万円プレイヤーを出すという目標があります。
プロとして質の高い保育を行えば、可能だと思うんです。
坂本さん:いいですね。子ども主体の保育をしっかりと行い、情報発信をすると同時に人材育成もする……
1000万円もらう価値のある仕事だと思います。
僕の今後の目標は、園庭がある保育園を一から作ることです。
いつか、てぃ先生と園長同士で話す日が来るかもしれないですね。
てぃ先生:ありがとうございました。頑張ります。
てぃ先生の訪問日誌
「子どもの主体性を重んじた保育」という言葉は聞き飽きるほど耳にしてきましたが、
ここまで具体的に実践している園はあまり見たことがありませんでした。
保育士みんなが「そうだよな。そうしたいよな」と理想論のように考え話していることを、この園ではすでに実践しているんです。
本気でやろうと思えばできるんですね。
誰のために、何のために「保育」をするのか。
それを考えれば考えるほど、『RISSHO KID’Sきらり』の考え方が輝いてみえるのではないでしょうか。
プロフィール
てぃ先生:
関東の保育園に勤めるカリスマ保育士。
保育園の日常をつぶやくツイッターには40万人を超えるフォロワーがいる。
Twitter原作のマンガ『てぃ先生』のほか、
著書に『ハンバーガグー』『ほぉ…、ここがちきゅうのほいくえんか。』
(ともにベストセラーズ)など。マンガのアニメも公開中!(タテアニメ)
https://twitter.com/_happyboy