夏までに、今年一度目の保護者会を開いた園も多いのではないでしょうか。
みなさんの園では保護者会をどのように活用していますか。
保護者会が近付くにつれ、緊張してしまう……という方も、いらっしゃるかもしれません。
でも、保護者会は保育士の専門性を伝え、保護者の安心感を高めるための、
またとないチャンスでもあるのです。
ある小学校の先生が、私にこのように訪ねてこられたことがあります。
「小学校では、保護者会や個人面談など保護者の方との接点が数えるほどしかなく、
年々移り変わっていく保護者の考え方をつかみかねるところがあります。
その点、保育園では保護者と関わる機会も多く、
私たちよりも保護者の気持ちをよく感じているのではないでしょうか。
ぜひそのあたりのことを教えて下さい」。
確かに、日々の送り迎えのある保育園は、
小学校に比べればその様子を見たり子供への関わり方に触れたり、
お話をする機会なども多いかとは思います。
しかし、それでもある程度踏み込んだ話をしたり、
子育ての中でも必要なことをお伝えするといった時間が十分にあるわけではないですよね。
ましてや、保育時間の長いケースでは、登園は早番、降園は遅番と、顔を合わせる保育者も異なります。
クラス担任であっても、毎回コンスタントに顔を合わせるわけではありません。
そうなると、踏み込んだコミュニケーションが必要な人ほど、
アプローチの機会は減ってしまうなんてこともあるわけです。
そんな現在ですから、保護者会、
特に年度初めの保護者会は子育ての中で大事なことをお伝えする貴重な機会であると言えます。
また、その場を上手に活用することで保育士としての専門性をアピールする、
またとない機会ともなります。
そこで今回と次回は、保護者会を有用な場とするため、
また専門性を伝える場として活かすことについて触れたいと思います。
一生懸命すぎて、我が子を責めてしまう親たち
保育は低年齢のときからの積み重ねが重要ですので、
ここでは0歳、1歳、2歳といった乳児クラスでの例を見てみます。
こういった0歳、1歳、2歳で保育園に入ってきた、
あるいは進級したばかりの保護者の方はどういった気持ちになっているか、
保育士として考えたことがありますか?
いま子育てをしている人たちの多くは、とても真面目で一生懸命で、
子供を大切にし、優しくしたいと思っています。
それ自体はもちろんいいことですが、実際には「思いが強すぎる」ゆえの問題も出てきます。
「ちゃんと育てなければ」と思うあまり、過保護になったり、
過干渉になったり、その結果子供への注意や小言ばかりが多くなってしまう。
すると、かえって子供は大人の言葉をスルーするクセがついてしまったり、
大人は大人で子育てのイライラばかりがつのってしまう…といった傾向になりやすいのです。
同様に、親が子育てを「しっかりしなければ」と思うあまり、
周りの子と我が子と見比べて、我が子にダメ出しを重ねてしまったり、
それによって自己肯定ができなくなり、イライラを周囲に振りまいてしまう子供などもいます。
そういった現在の子育てのあり方の中で、保育士の役割のひとつが見えてきます。
それは、「ブレーキ役」になることです。
ちょっと話は飛躍しますが、プロのスポーツ選手には、必ずコーチや監督がつきます。
このコーチや監督の役目で重要なのは、
意外なことに「練習をたくさんさせる」ことではありません。
能率の良いメニューを整え、練習のさせすぎを防ぐことであると言われています。
たとえ目的は良いものだとしても、頑張りすぎ、やり過ぎは、
結果としていいものにはならない場合があるのですね。
保育士はいきすぎた子育ての「ブレーキ役」
現在のお父さんお母さんたちも、それと似たような状況におかれています。
「私が頑張って子供を正しく育てなければならない」といった強い気持ちを持っています。
その形はひとによりさまざまです。
ある人は他者の目が非常に気になります。
我が子が友達と遊んでいるときに、他児のモノを取ってしまったりすると、
烈火のごとく子供に怒ります。
このようなモノの取り合いなどは、1~2歳であれば子供の対人関係上の経験として、
誰もがすることは保育士のみなさんは知っていますよね。
当然ながらそれは「良い悪い」といった善悪の問題ではなく、
取ったり取られたりを経験しながら、他者や外部の世界との関わりを学んでいく必要なことです。
しかし、そのお母さんはそのようなことは知りませんし、
知っていたとしてもそれを広い心で受けられるような余裕がありません。
なぜなら、「他者の目が非常に気になる」という自身の心情がまずあるので、
我が子が正しくない行動をとっていたら、
「親である自分がダメな人間だと周囲の人に思われはしないだろうか」といった強迫観念が
働いてしまうからです。
このような気持ちを持っている人には、誰かがそれと教えてあげて、
そうした子育てにブレーキをかけてあげる必要があります。
またある人は、教育熱心です。
しかし、それも度を超してしまえば子供を追い詰めることがあるというのは、
これも保育士の方は知っていると思います。
ただでさえ長時間保育の中で、心にも身体にも負荷がかかっているのに、
たくさんの習い事や勉強を要求されて、あっぷあっぷになってしまっている子を、
見てきた人も多いでしょう。こういう親にもブレーキが必要ですよね。
親の「不安と心配」を理解して、寄り添うこと
では、保育士はどのようにしてブレーキをかけたらよいのでしょう?
「それはこういうものなので、そうする必要はありませんよ」と、
頭ごなしに理屈を言っても、その人たちの子育てがいい方に変わるということは、そうそうありません。
なぜなら、その保護者の人たちの心の底にあるのは「不安と心配」といった、
形のない心情的なものだからです。
このお父さんお母さんのいっぱいいっぱいの気持ちにブレーキをかけてあげるためには、
心の根っこにある、「不安と心配」を理解して、寄り添ってあげる必要があります。
また、そこにアプローチすることができると、
専門職としての保育士という存在に信頼感を持ってくれるようになります。
そのためにはどうすればいいのか。実は、そこで保護者会が真価を発揮するのです。
次回はそこを具体的に見ていきたいと思います。
プロフィール
保育士おとーちゃん(須賀義一)
1974年生まれ。大学卒業後、男性としてはまだ珍しかった保育士(当時は保父)資格を取得する。
2009年、保育士としての経験などを元にブログ『保育士おとーちゃんの子育て日記』を開設。
現代の子育てに合った具体的な関わり方を伝えつつ、多くの人からの子育ての悩み相談にも応える。
著書に『保育士おとーちゃんの「叱らなくていい子育て」』『保育士おとーちゃんの「心がラクになる子育て」』(ともにPHP研究所)など。
東京都江戸川区出身、墨田区在住。一男一女の父親。